Dancing in the Rain

Life is not about waiting for the storm to pass but about learning how to dance in the Rain.

米国によるイランへの再制裁事件

イラン v. 米国 国際司法裁判所

保全措置命令 2018年10月3日

事実と経過

2018年5月、米国は、イランの核プログラムに対する制約と引き換えに制裁解除を約束した、イランと国連安保理常任理事国、ドイツ及びEUによる2015年の合意であるJCPOA(Joint Comprehensive Plan of Action)からの離脱を表明。さらに米国は、2018年11月までに同国のイランに対する制裁解除を解く意思を表明。これに対し、イランは米国を国際司法裁判所(ICJ)に提訴。同時に、再制裁を防止する仮保全措置命令を要請した。

 米国は、ICJの強制管轄権を1986年に離脱しているため、イランは、管轄権の基礎として、1955年の米国イラン二国間の友好経済関係領事権に関する条約(1955 Iran-U.S. birateral Treaty of Amiy, Economic Relations, and Consular Rights. 以下、友好条約)を主張した。友好条約第21条2項は、同条約の「解釈又は適用」にかかる紛争について、「外交により十分な解決がなされない場合」にICJの管轄権を認めている。

 イランは、米国の再制裁により経済的な損害を被り、これにより米国は友好条約の以下の各条に違反したと主張した。第4条1項(国民、法人及びその財産に対する公平で平等な取り扱い)、第7条1項(両国間の資金の移動の自由)、第8条1項及び2校ならびに第9条2項(輸出入品に対する最恵国待遇)及び第10条1項(二国間の通商及び航海の自由)

 これに対し、米国は以下を主張し、イランに反論した。まず、JCPOAは独自の紛争処理メカニズムを備えているため、ICJによる紛争解決を排除しているとした。次に、米国は、放射性物質に関する措置及び安全保障上の不可欠の利益を保護するために必要な措置の適用を友好条約違反の正当化自由として認める同条約の第20条1項を援用し、JCPOAからの離脱及び再制裁の実施は、米国の安全保障上の利益及び核不拡散のために必要な措置であるとした。さらに、米国は、イランが外交的解決のための努力を怠っているために管轄権を援用する要件を欠いている旨主張した。

命令要旨

 裁判所が仮保全措置を命令するためには以下の3要件を充足する必要がある。すなわち、(1)裁判所に一応の(prime facie)管轄権があり、(2)主張する権利が少なくとももっともらしいものであり(plausible)かつ要請する措置と関連しており、(3)当該措置を否定することが、回復不可能な損害をもたらす真正で急迫な(real and imminent)危険があること、を提訴国は立証しなければならない。

 裁判所はまず、友好条約20条1項は、同条約の解釈及び適用に関する紛争に対するICJの管轄権を認めていることから、米国の主張する同条約第21条2項の安全保障例外が適用されるか検討する必要性は、裁判所の管轄権を受諾するのに十分であると判示し、一応の管轄権を認めた。

また、裁判所は、同条約は外交交渉を裁判所の管轄権の前提条件として要求していないと判示した。

 次に、裁判所は、権利と措置の関係について、イランの主張する権利は、少なくとも人道的物資の貿易及び民間航空機の安全に関する権利については安全保障例外の範囲外であることを認めた。さらにこれには、医療及び医療機器、食料、民間航空の維持及び支援のサービスが含まれるとした。これに対し、米国は、すでに民間航空の安全を含む人道的例外の制度を有しており、かつ、人道支援及び民間航空の安全にかかる問題が、完全で迅速な考慮を受けるべく最大の努力をすることを保証すると主張したが、裁判所は、その保証の野心的な性格(aspirational nature)から裁判所の介入が必要であると判示した。

 最後に、裁判所は、「回復不可能な損害」について、制裁の実施による生命及び健康に対する損害と解釈した上で、人道的物資及びサービスの通商に対する制約はそのような損害を引き起こす可能性があると判示した。

 以上から、裁判所は、イランに対する人道的物資及び民間航空の安全を確保するためのサービスの輸出に対する再制裁によるいかなる損害を除去することを要請する仮保全措置命令を決定した。また、裁判所は、両国が、これ以上紛争を悪化させないことを約束することを命令した。

備考

(1)1955年のイランと米国間の友好条約は、1979年に両国の外交関係が断絶する前に締結された条約であるが、これまでにも在テヘラン米国大使館事件(1980)及びオイル・プラットフォーム事件(1996)において管轄権の基礎として認められてきた経緯がある。またイランは、現在保留中であるイランの財産事件(Certain Iranian Assets Case)においても同条約を管轄権の基礎として主張している。

(2)本決定を受けて、米国は友好条約を即時に破棄する旨を表明した。また、同時に、本決定とは関係なく、人道的支援に関連した取引に対する例外的措置は維持する旨発表した。ただし、友好条約第23条3項は、条約の破棄について、書面による通知の1年後に失効するとしており、本件及び保留中の米国対イランの事件については影響を受けない。 

【メモ】米国等によるシリア攻撃の法的評価

【事実】

 2018年4月、米国は、英仏と合同で、シリア・アサド政権の化学兵器施設に局所攻撃を実施。ダマスカスのほか、西部ホムス近郊の施設が標的となった。これは、ドゥーマでのシリア政府による化学兵器使用疑惑に対応するものであった(ただし、シリア政府は使用を否定。)。14日、トランプ米大統領は声明を発表し、今回の攻撃の目的は、「化学兵器の製造、拡散、使用に対する強力な抑止を確立する」ことであり、「シリア政府がその使用を止めるまで対応を継続する用意がある」と説明。また、市民の犠牲の危険を最小化するものであり、シリアの化学兵器施設への攻撃は、合法(legitimate)であり、比例性(proportionate)があり、正当化できる(justified)ものであると表明。

 さらに、「化学兵器は、その残虐性だけでなく、少量ながら広範な惨事を引き起こす可能性があることから、特有の危険性を有して」おり、「その使用のコストは、常にいかなる軍事的・政治的利益よりも上回ること」を理解させるため、今回の攻撃は「必要」であった、と説明した。これに対し、シリア外務省は、「紛れもない国際法国連憲章違反の攻撃を最も強い言葉で非難する」と表明した。また、ロシア、中国及びイランも同様の反論を表明した。他方、独、EU、日本は攻撃の支持を表明した。

 

【論点】

 米国等のシリアの化学兵器施設に対する攻撃は国際法、特に武力紛争法(jus ad bellum)に違反するか。また、仮に国際法上正当化できる場合、どのような立論が可能か。特に米国は法的根拠を示していないため問題となる(legitimateとは、lawful/legalと区別される。)。

 

【考察】

1 既存の国際法の枠組み

(1)原則:武力による威嚇または武力行使(use of force)の禁止(国連憲章2条4項)→ニカラグア事件判決で強行規範(jus cogens)であることを認定。

(2)例外:

 ①集団的及び個別的自衛権の行使(国連憲章51条)

→シリア政府による米国への攻撃は不存在。

 ②国連安保理に承認(authorization)された攻撃(国連憲章第7章)

→承認なし。ロシア及び中国の拒否権行使による安保理の機能不全(plalysis)

 ③領域国の同意(consent)

→同意なし。(シリア政府は、そもそも化学兵器の使用を否定)

 

(3)結論:国際社会によって認められた既存の枠組みでは合法性を主張することは困難。

 

2 合法化の試み

(1)議論の前提:米国の攻撃を違法と評価することの法的含意

 自衛権の要件にも該当せず、また、安保理が機能不全に陥っている状況の中で、人道的観点から、一定の要件の下、必要な武力行使を法的に容認することはできないか(あるいは、するべきではないか。)。

 また、米国の武力行使は違法であるとする場合、むしろそれは、国際法の不遵守を看過することとならないか。もしそうであれば、何らかの国際法の枠組みに組み込むことが、国際法秩序の維持や国際法の信頼性、法的安定性及び予見可能性の観点から有益ではないか。

 

(2)あり得べき法的根拠

 ①自衛権概念の拡大化学兵器のテロリストへの拡散に対する先制的自衛(anticipatory self-defense)

→そもそも先制的自衛権の法的評価が議論が分かれて(controversial)いる。

 ②緊急避難(necessity):違法性は免れないが、責任を阻却する。コソヴォへのNATOによる空爆(「違法 (illegal)」であるが「正当(legitimate)」)。

→ロジックとしては妥当するが、「合法性 lawfulness」を認める枠組みとはなっていない。また、悪用(misuse)の可能性 cf. ロシアによるクリミア併合。

 ③人道的介入(humanitarian intervention)ないし保護する責任(Responsibility to Protect; R2P)

→概念的には国際法上の評価が分かれて(controversial)いる。特に人道性について誰が評価するのかという主観的要素を含むことから濫用が問題となるが、今回の攻撃には広範な国際社会の支持が存在。ただし、米国自身が人道的介入の概念に反対を表明しているため説得性に欠ける。また、R2Pについては安保理の承認を前提として議論されてきた。

 ④新たな規範の模索:一定の厳格な要件下における人道的介入の合法化(ハロルド・コー)、化学兵器の使用を「人類共通の敵」(hostis humani generis)と評価(チャーリー・ダンラップ)など。

(3)訴訟手続の開始②

5 訴訟物

(1)訴訟物の意義:法文上の概念ではなく、訴訟上の請求と同義であると定義。

  広義:原告による権利主張とそれに基づく一定の形式及び内容の判決要求

  狭義:原告による権利主張

  最狭義:原告によって主張される権利自体 

 (2)訴訟物の機能:訴訟物はこれ以上分割することのできない審判対象の最小単位を指し、訴訟法上の様々な問題が訴訟物概念を基準として処理。

 ex.①客体的併合該当性(136条)、②訴えの変更該当性(143条)、③二重起訴該当性(142条)、④既判力の客体的範囲(114条1項)

(3)訴訟物理論

実体法説:実体法上の権利を訴訟物とする。(旧訴訟物理論=実務通説)ex.鉄道事故不法行為に基づく損害賠償請求権と契約上の債務不履行に基づく損害賠償請求権は実体法上権利として異なるものである以上、訴訟物としても異なる。

 批判:①紛争の蒸し返しや二重の認容判決の可能性

    →選択的併合及び信義則による後訴の却下を認めることで一定程度解決。

訴訟法説:一分肢説と二分肢説に分かれる

 一分肢説:一定の裁判要求が訴訟物  ex.鉄道事故:「〇〇円支払え」という裁判の要求

 二分肢説:裁判要求のみならず事実関係の同一性によっても訴訟物を枠付け(独通説)異なる事実関係から同一の裁判要求を基礎づける複数の請求権が発生する場合に一分肢説と異なる結論が導かれる。

 ex.売買代金支払請求権と手形金額請求権:請求権ごとに異なる訴訟物を構成

新訴訟物理論:学説では多数説

 同一の事実関係から複数の請求権が発生する場合であっても、実体法秩序が1回の給付しか認めていないのであれば、この給付を受ける法的地位又は受給権を1個の訴訟物として把握するべきとする。紛争の蒸し返し及び二重の認容判決を回避。

 批判:①裁判所の釈明義務拡大の可能性、②請求権の実体法上の法的性質が不明

 給付訴訟の訴訟物:新訴訟物理論によれば、複数の請求権によって基礎付けられ得る一回の給付を求める地位または受給権が訴訟物を構成する。ex.500万円の支払を受ける法的地位(の存否)

 形成訴訟の訴訟物:新訴訟物理論では、実体法が定める個々の形成原因が訴訟物になるのではなく、一定の法律関係変動を求める地位が訴訟物を構成する。旧訴訟物理論では、形成原因が訴訟物であり、形成原因が異なれば、求める結果が同じでも別個の訴訟物を構成する。

 ex.離婚の訴え:離婚を求める地位が訴訟物であり、民770条1項の離婚事由はこのような地位を基礎づける法的観点にすぎないとする。

 確認訴訟の訴訟物:実体法上の権利の存否を確認することによって紛争を予防し、また、抜本的に解決すること目的とする結果、いずれの説でも実体法上の権利が1個の訴訟物を構成する。ただし、所有権につき、取得原因のいかんにかかわらず、同一の土地所有権である限り一個の訴訟物とするのが判例・通説 

6 処分権主義

(1)処分権主義:①訴訟の開始(「訴えなければ裁判なし」及び「不告不利の原則」)、②審判の対象・範囲、③判決によらない訴訟の終了に関する決定を当事者に委ねる考え方。訴訟物たる権利ないし法的関係は私法の適用を受けるものである結果、私的自治(当事者の意思を尊重し国家の不当な介入を避ける原理)が妥当。

 cf.訴訟要件に関する処分権主義:訴訟要件を欠く場合、裁判所は「訴訟判決(訴え却下判決)」をすることになるが、被告による訴え却下の申し出がない場合でもかかる判決をすることが許されるか。→原告による訴え提起には、訴えの適法性についての審判を求めるという意思も含むと解する。

 (2)処分権主義の機能:当事者が申し立てていない事項については判決することができない(246条)原告の意思を尊重するという意義と全部敗訴した場合の危険の限度を予告し、それによって訴状送達を受けた段階で、被告がかかる危険を考慮した上で、訴訟追行の仕方を決めることを可能にする意義。

7 訴訟の開始の効果

 (1)訴えの提起の効果

 訴訟係属の発生:特定の訴訟物が、特定の裁判所で審理判決される状態。被告への訴状の送達により生じる。被告が訴え提起について了知する機会を与えられないまま訴訟係属が発生することを防ぐ趣旨。

 時効の中断の効果:民法147条1号は「請求」によって取得時効及び消滅時効の期間が中断すると定める。民訴147条は「訴えを提起した時」=裁判所に訴状を提出した時点でその効果が生じるとする(従って訴訟係属の発生を待たない。)。 

 ①権利行使説:訴状の提出により権利行使の態度が明確になるとする説

 ②権利確定説:たまたま訴訟の進行が遅れたことにより訴訟中に事項が完成するのは相当ではないことから訴えの提起時に時効中断効を発生させたものだとする説

 時効の中断は訴訟物に及ぶ。ex.所有権確認請求訴訟の提起により被告の取得時効は中断。判例では、債権不存在確認請求訴訟において、被告が債権の存在を主張し、棄却判決を求めた場合は、被告が債権の存在を主張した時から消滅時効は中断するとした(大判昭和16年2月24日)。

 訴訟物たる権利の判断の前提となる権利について時効中断の効果:

 権利確定説:伝統的には否定。肯定する学説もあり。

 権利行使説:明確な権利行使の態度が認められる限り肯定。

 判例では、所有権に基づく土地明渡請求訴訟提起は所有権の取得時効の中断する効果を持ち、根抵当権設定登記抹消請求訴訟における被告による被担保債権の主張は当該債権の消滅時効を中断する効果を持つとした。

 時効中断の効果は訴えの却下または訴えの取下げがあった場合は失われる(民149条)

 権利行使説:訴えの取り下げの場合、権利行使が行われなかったとみなされる。却下の場合は、不適法な訴えの提起では権利行使として認められない。

 権利確定説:判決によって権利が確定する余地がなくなったためと解される。

(2)出訴期間遵守の効果:遵守の効果は訴訟提出時に発生し(147条)、訴えの取り下げ又は却下によって遡って失われる。ex.占有の訴え(民201条)、嫡出否認の訴え(民777条)

(3)その他の実体法上の効果:善意占有者の果実取得(民189条1項)は、本権の訴えを提起され敗訴した時は、訴えの提起の時から悪意の占有者とみなされる(民189条2項)法文上は訴え提起時に悪意が擬制されるが、訴状送達時点と解すべき。

7 訴訟係属の効果

  裁判所の審理義務、二重起訴の禁止(142条)、補助参加、独立当事者参加、共同訴訟参加、訴訟参加、訴訟引き受け、訴えの変更、中間確認の訴え、反訴など。

(2)訴訟手続の開始①

1 訴えの概念

 訴え:裁判所に対して、他の者に対する特定の権利または法律関係の主張を提示し、これに基づいて一定の内容及び形式の判決を求める申立て。

 ex.原告が、裁判所に対して、被告に対する契約から生じた請求権の主張を提示しつつ、これに基づいて被告は原告に対し金銭を返還せよ、という内容及び形式の判決を求める申立てを行う場合

 cf.請求:原告が被告に対してする特定の権利主張。これに加えて裁判所に対する一定の内容及び形式の判決の要求を含む広義の請求もあり。

2 訴えの類型

(1)給付の訴え:被告に対する給付請求権の主張に基づいて、被告に対して一定の作為・不作為を命じる判決を求める申立て。

 「現在の給付の訴え」と「将来の給付の訴え」:事実審の口頭弁論終結時に履行すべき状態にあるか否かで区分。ex.期限未到来の請求権や停止条件付請求権などが後者

 給付判決は執行力及び既判力を有するが、棄却する確定判決は既判力を有するが、「確認判決」であり執行力や形成力を持たない。

(2)確認の訴え:特定の権利の存在または不存在の主張に基づいて当該権利の存否の確認する判決を求める申立て。

「積極的確認の訴え」=所有権存在確認請求などと「消極的確認の訴え」=債務不存在確認請求などに区別

 判決には既判力があり、紛争の基本となっている権利の存否を確定することで派生紛争を含めた紛争を根本的に解決する機能や紛争予防機能がある。

(3)形成の訴え:一定の形成原因の主張に基づいて、裁判所に対して一定の法律関係の変動をもたらす判決を求める申立て。

「実体法上の形成の訴え」=離婚など変動すべき法律関係が実体法上のものである場合と「訴訟法上の形成の訴え」=再審の訴えなど訴訟法上のものである場合とがある。

 形成判決:判決で宣言された法律関係の変動が生じる。形成力は請求認容判決のみにあり、請求棄却判決は確認判決。

3 訴え提起の方式

(1)訴状の裁判所提出(133条1項):口頭での訴え提起は許されない(簡易裁判所を除く。)。

 訴え提起には所定の手数料を裁判所に納付しなければならず、手数料は、訴訟の目的の価額(訴額)に応じて定められる。(民訴費3条)

訴額」:原告が訴えによって主張する利益によって算定(民訴費4条①、民訴8条①)請求が全部認容され、その内容が実現された場合に原告にもたらされる直接の経済的利益を指す。果実、損害賠償、違約金または費用の請求が訴訟の附帯の目的であるときは訴額に参入しない。(9条2項)財産上の請求でない請求(ex.離婚)及び訴額算定が困難が極めて困難なもの(ex.住民訴訟)については160万円とみなされる(民訴費4条2項)。

(2)訴状の記載事項:当事者及び法定代理人と、請求の趣旨及び原因を記載(133条2項)これらの記載の欠缺は訴状却下の原因となる。必要的記載事項(137条)

①当事者及び法定代理人:原告及び被告が他の者から認識できる程度に特定したものでなければならない。訴訟代理人の記載は、その欠缺が訴状却下の原因になるという意味での必要的記載事項ではない。

②請求の趣旨及び原因:

 請求の趣旨:原告の要求する判決の内容及び形式の表示。 ex.「~支払え」「確認する」  

 請求の原因:原告による権利主張を特定する事実。請求を理由づける事実についても具体的に記載することを求める(民訴規53条)間接事実も記載することが防御の対象が明らかになり訴訟の円滑な進行に資するが、欠けていても訴状却下の原因とはならない。

 請求の特定:当事者によって特定された事実についてしか判決することができない(=処分権主義)のため不可欠。金銭の支払いを求める訴えについては数額を訴状に明記することが必要。金銭債務不存在確認訴訟の場合は明記せずとも不適法とまではいえない。

4 訴え提起後の手続

 事件の分配後、所管裁判長は訴状の必要的記載事項に不備がある場合は相当期間内に補正をするよう命じなければならない(137条1項前段)補正なければ却下(同2項)即時抗告可能(同3項)

 訴状の送達:副本を被告に送達(138条1項)補正命令あり。

 訴状が適式であっても当事者のその後の訴訟活動によって訴えを適法とすることが全く期待できないような場合、裁判長は送達前に判決を持って却下できるとした判例あり(最判平成8年5月28日)。

 口頭弁論期日の指定(139条):訴え提起後30日以内が原則

(1)民事訴訟とは何か

1 民事訴訟の意義

(1)目的と機能

 民事訴訟制度:民事上の紛争を解決するために社会が設けた公的な手続

 cf.「社会があるところに必ず法があり」→裁判例の蓄積が法の形に結晶化「法の歴史は裁判の歴史」

 民事訴訟の目的論:権利保護説、私法維持説、紛争解決説、多元説、目的論棚上げ説などの学説が乱立 → 目的よりも機能について正しく認識すべき。 

(2)民事紛争解決に関わる諸制度:裁判外紛争解決(ADR: Alternative Dispute Resolution)

調停:第三者が仲介または助力する形態による合意型の紛争解決手段。当事者の合意に基づく紛争解決であることから感情的なしこりが残りにくく、また解決結果に同意することから任意履行が得やすい。

仲裁:第三者である仲裁人に紛争解決を委ね、仲裁人の判断に服する旨を合意して行う形態の紛争解決手段。「裁断型」ではあるが当事者双方が合意をしなければ仲裁を行うことができない点で民事訴訟と相違する。手続は仲裁法により規律。仲裁判断は確定判決ど同一の効力を有し、一定の手続を踏めば強制執行も可能。当事者は仲裁地や仲裁機関を自由に選ぶことができ、また、手続きについても非公開とできるなど柔軟かつ自由度が高いため、国際的な企業間の商事紛争にて多用される。

民事訴訟:「強制的」かつ「最終的」な紛争解決手段。強制的=手続の開始及び強制執行。最終的=手続開始に当事者の合意を要しないことから民事に関する紛争解決の最後の受け皿として機能。その他、手続の厳格性=高い明確性及び透明性、再審理の保障など。

(3)法源

①形式的意義の民事訴訟法:「民事訴訟法」という名称の法典(平8法109) 

②実質的意義の民事訴訟法:民事の手続法の総体 ex.非訟事件手続法家事事件手続法、民事保全法民事執行法、破産法、裁判所法

 cf.慣習及び判例:実体法の世界では慣習法規についても法源性を認める場合あり(商1条2項、通則法3条等)。民事訴訟においては法源性を否定=公法上の法律関係における手続の安定性、透明性、画一性の要請あり。判例法源性は否定するも先例として事実上の拘束力を有する=法源的機能ないし事実上の法源

 cf.民訴318条①及び337条②等などの制定法が用いる「判例」は、「主論」の判決理由中で示された法律上の判断のうちの結論部分(結論命題)と結論命題の不可欠の前提となる直接的な理由部分に限るとする学説が有力。「法源的機能」としての「判例」については、制定法上の「判例」よりも外縁が緩やか。 

(4)機能的分類

訓示規定:それに違反しても訴訟上の効力には影響が生じない(=違反しても行為や手続が無効とならない又は制裁が設けられていない)規定。ex.訴訟手続の計画的な遂行(民訴147条2)、判決の言渡し(251条①)、争点整理手続後の説明義務(167条等)

効力規定:それに違反したときは、行為や手続が無効になるなど一定の影響が生じる規定。

 強行規定:裁判所の裁量や当事者の意思でその効力を変更することができない。訴訟制度の根幹や原理、裁判所の正統性の基礎となる規定など遵守が強く要請されるもの。ex.専属管轄、口頭弁論の開始、当事者能力、訴訟能力

 任意規定:当事者の合意により規定内容を変更することや異議を述べないことで不問に付すことができる規定。前者について、「訴訟上の合意」又は「訴訟契約」と呼ばれ、民事訴訟では原則許されないが、専属管轄を除く管轄の規定や控訴権の規定は例外的に任意規定。後者について、訴訟法に固有の意味における任意規定であり、責問権の放棄・喪失(90条)という。

2 判決手続の基本構造

(1)判決手続:当事者間の紛争の対象である私法上の権利関係を確定することにより、紛争解決のための基準(=判決)を作成する手続

(2)判決手続の基本理念

公正と効率

 公正:「適正」=真実に即した裁判であることと「公平」=裁判所が平等に当事者を扱うこと。

 効率:「迅速」=手続が不当に停滞・遅延しないことと「経済」=当事者の有形無形の負担を低減すること。

信義誠実の原則:民訴2条

    相手方の信頼を裏切らないように誠実に行動するべきとの考え方。判例法理により事件の個別性を超えた類型的適用が認められるようになった。

手続保障

 憲法32条が保障する「裁判を受ける権利」を具体化するために当事者に手続主体としての地位を保障すべきとする理念。特に、当事者権の中核たる弁論権=主張・立証の機会を与えられる権利を保障すべき。

(3)特別手続:通常の手続の他に設けられた特別の手続

簡易裁判所の手続:口頭による訴えの提起(271条)、準備書面の義務なし(276条①)、一定の書面審理(277条)

②人事訴訟の手続:身分関係の形成・存否の確認のための特別法。客観的な真実発見の要請が高く、当事者自治の要素を後退させる必要、手続公開の制限、画一的な法律関係の確定。

行政訴訟の手続:行訴訟。釈明処分の特則(同法23条の2)、職権証拠調べ(同24条)、判決効の第三者への拡張(同32条1項)

④各種の略式手続:手形・小切手訴訟、少額訴訟、督促手続

3 訴訟費用

(1)意義:「民事訴訟費用等に関する法律」で定められた訴訟に要する費用。裁判費用=裁判所の司法サービスの提供に要する費用と当事者費用=当事者が支出する費用のうち訴訟費用として法定されているもの。

 cf.弁護士に対する報酬:訴訟費用とはされていない。不法行為訴訟において、判例によれば、「諸般の事情を斟酌して相当と認められる額」を不法行為と相当因果関係に立つ損害として求めることができる。

 敗訴者負担の原則(61条):相手方は負担者に対して事故が支弁した費用の弁償を求める請求権を取得。

 一部敗訴の場合は、裁判所の裁量による(64条)。共同訴訟人は原則等分だが、裁判所は事情に応じて連帯や一部負担とすることができる(65条)。

(2)訴訟費用確定の手続:本案の終局判決の主文において、職権で訴訟費用の全部について負担の裁判をする(67条1項)。上訴裁判所は、裁判を変更するとき原審との総費用につき裁判する(同条2項)。訴訟費用の負担の独立の上訴は不可(282条・313条)。

(3)資力が不十分な当事者の救済制度:訴訟救助(82条)=一定の訴訟費用の支払いを猶予(83条)・法律扶助=一定の範囲で弁護士費用などの立て替えを行う制度。