Dancing in the Rain

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【メモ】米国等によるシリアに対するミサイル攻撃の法的評価

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2018年の米国のシリアの化学兵器関連施設に対するミサイル攻撃について国際法の観点からざっくりまとめてみました。

 

事実と経過

  • 2018年4月、米国は、英仏と合同で、シリア・アサド政権の化学兵器施設に局所空爆を実施。ダマスカスのほか、西部ホムス近郊の施設が標的となった。これは、ドゥーマでのシリア政府による化学兵器使用疑惑に対応するものであった(ただし、シリア政府は使用を否定。)。
  • 同14日、トランプ米大統領は声明を発表し、今回の攻撃の目的は、「化学兵器の製造、拡散、使用に対する強力な抑止を確立する」ことであり、「シリア政府がその使用を止めるまで対応を継続する用意がある」と説明。また、市民の犠牲の危険を最小化するものであり、シリアの化学兵器施設への攻撃は、合法(legitimate)であり、均衡性(proportionate)があり、正当化できる(justified)ものであると表明。
  • さらに、「化学兵器は、その残虐性だけでなく、少量ながら広範な惨事を引き起こす可能性があることから、特有の危険性を有して」おり、「その使用のコストは、常にいかなる軍事的・政治的利益よりも上回ること」を理解させるため、今回の攻撃は「必要」であった、と説明した。
  • これに対し、シリア外務省は、「紛れもない国際法国連憲章違反の攻撃を最も強い言葉で非難する」と表明した。また、ロシア、中国及びイランも同様の反論を表明した。他方、独、EU、日本は攻撃の支持を表明した。

考察

  • 米国等のシリアの化学兵器施設に対する攻撃は国際法、特に開戦法規(jus ad bellum)に違反するか。
  • また、仮に国際法上正当化できる場合、どのような立論が可能か。特に米国は法的根拠を示していないため問題となる(legitimateとは、lawful/legalと区別されることを前提。)。

原則:武力行使の禁止

既存の国際法枠組みにおける例外

国連憲章体制の国際法秩序においては、自衛権行使、集団安全保障(国連安保理の承認)及び領域国同意が武力行使の正当化事由として考えられるが、本件はいずれも満たさないと考えられる。

(1)集団的及び個別的自衛権の行使

シリア政府による米国への(国連憲章51条における)武力攻撃は不存在。

(2)国連安保理の承認

国連憲章第7章に基づく安保理の承認(authorization)なし。ロシア及び中国の拒否権行使による安保理の機能不全(paralysis)が背景。

(3)領域国の同意

シリア政府による同意(consent)なし。シリア政府は、そもそも化学兵器の使用を否定。

合法化の試み

議論の前提:米国の攻撃を違法と評価することの法的含意
  • 自衛権の要件にも該当せず、また、安保理が機能不全に陥っている状況の中で、人道的観点から、一定の要件の下、必要な武力行使を法的に容認することはできないか(あるいは、するべきではないか。)。
  • また、米国の武力行使は違法であるとする場合、むしろそれは、国際法の不遵守を看過することとならないか。もしそうであれば、何らかの国際法の枠組みに組み込むことが、国際法秩序の維持や国際法の信頼性、法的安定性及び予見可能性の観点から有益ではないか。

あり得べき法的根拠

(1)自衛権概念の拡張
  • 化学兵器のテロリストへの拡散に対する先制的自衛(anticipatory self-defense)を認める。
  • 問題点:濫用の危険性。そもそも先制的自衛権の法的評価が議論が分かれて(controversial)いる。
(2)緊急避難
  • 違法性は免れないが、緊急避難(necessity)により責任を阻却する。NATOによるコソヴォ空爆(「違法 (illegal)」であるが「正当(legitimate)」)。
  • 問題点:ロジックとしては妥当するが、「合法性(lawfulness)」を認める枠組みとはなっていない。また、悪用(misuse)の可能性 cf. ロシアによるクリミア併合。
(3)復仇ないし履行
  • 化学兵器使用禁止の規範違反に対する復仇(reprisal)ないし履行(enforcement)として捉える。
  • 問題点:武力復仇は禁止されている。また、化学兵器禁止条約(CWC)の枠組みにおいて独自の履行措置が定められている以上、条約外のかつ武力による履行は認められないと解するべき。
(4)人道的介入ないし保護する責任
  • 民間人(citizen)に対する化学兵器の使用を人道的危機と捉え、人道的介入(humanitarian intervention)及び保護する責任(Responsibility to Protect; R2P)により正当化する。
  • 問題点:概念的には国際法上の評価が分かれている。特に人道性について誰が評価するのかという主観的要素を含むことから濫用が問題となる。
  • また、米国自身が人道的介入の概念に反対を表明しているため説得性に欠ける。また、R2Pについては安保理の承認を前提として議論されてきた。
(5)低烈度攻撃(de minimis)

合法化理論に共通の困難性

既存の国際法において合法化できない場合、(1)武力行使に関する新たな規範を創設するか、(2)既存の規範の「再解釈」を行うことが法理論上必要となる。

(1)新たな規範の創設
  • 国家実行と法的信念(opinio juris)が認められれば新たな規範としての国際慣習法(ICL)を認定可能。
  • しかし、武力不行使原則は国連憲章上の規範であり、国連憲章最高法規(憲章第103条)及び厳格な改正手続(第108条及び109条)を鑑みれば、そもそも慣習法によって明文規定を変更可能であるのかが疑問
  • さらに、武力不行使原則が強行規範(jus cogens)であるとすれば、それを変更する規範もまた強行規範でなければならない(条約法条約53条)
(2)「後の慣行」による憲章の「再解釈」
  • 新たな規範自体を創設するのではなく、「後の慣行(subsequent practice)」により憲章規定(特に第2条4項)の変更(ないし「再解釈」)があったものと考える(条約法条約第31条3項(b))
  • 後の慣行として評価される国家実行は、条約上の義務の変更に関して全ての締約国がその内容について明確に同意する必要があるとされる。国家実行がこのレベルに達したとまで言えるかは疑問。

今後の展望

  • 化学兵器の使用は最も普遍的な条約の一つであるCWC違反であり、かつ、民間人への使用は重大な人道的危機を構成すると考えられる。しかし、領域国(シリア政府)はこの事実を否定し、それゆえ対応する意思がない。
  • 他方で、シリア政府による化学兵器使用は、前例に鑑みれば相当程度の事実の真実性があると考えられ、化学兵器禁止機関(OPCW)及び国連の事実調査は、シリア政府の拒否及びロシア異議により困難であった。
  • さらに、今回の空爆には広範な国際社会の支持(政治的承認)が存在。また、国連安保理は拒否権により機能不全にあるという背景がある。さらに、攻撃の限定性(化学兵器施設に対する空爆)及び被害の大きさを検討すれば、「低烈度」性が認められる。
  • これらの要素を総合的に衡量することによって正当化することができないか。国際法一般ではなく、特に開戦法規(jus ad bellum)の分野において、一つの法的根拠(sole basis)に依拠するのではなく、複数の根拠により正当化を主張するケースが多いことを考えれば、そういった関連要素を総合衡量した上で合法性を判断するという枠組み(ないし一段上の慣習?)を想定することができないか。

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(3)訴訟手続の開始 II【民事訴訟法】

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独学で学んでいた民事訴訟法のまとめです。大学時代に民訴を取らなかったというちょっとした後悔から手をつけて見たものの、まさに眠訴と呼ばれる所以で昼休みに読むものじゃなかったです。

 

訴訟物

訴訟物の意義:法文上の概念ではなく、訴訟上の請求と同義であると定義。

 広義:原告による権利主張とそれに基づく一定の形式及び内容の判決要求

 狭義:原告による権利主張

 最狭義:原告によって主張される権利自体 

訴訟物の機能

訴訟物はこれ以上分割することのできない審判対象の最小単位を指し、訴訟法上の様々な問題が訴訟物概念を基準として処理。

 ex.客体的併合該当性(136条)、訴えの変更該当性(143条)、二重起訴該当性(142条)、既判力の客体的範囲(114条1項)

訴訟物理論

(1)実体法説
  • 実体法上の権利を訴訟物とする。(旧訴訟物理論=実務通説)

ex.鉄道事故不法行為に基づく損害賠償請求権と契約上の債務不履行に基づく損害賠償請求権は実体法上権利として異なるものである以上、訴訟物としても異なる。

  • 批判:紛争の蒸し返しや二重の認容判決の可能性

    →選択的併合及び信義則による後訴の却下を認めることで一定程度解決。

(2)訴訟法説
  • 一分肢説:一定の裁判要求が訴訟物。

ex.鉄道事故:「〇〇円支払え」という裁判の要求

  • 二分肢説:裁判要求のみならず事実関係の同一性によっても訴訟物を枠付け(独通説)異なる事実関係から同一の裁判要求を基礎づける複数の請求権が発生する場合に一分肢説と異なる結論が導かれる。

ex.売買代金支払請求権と手形金額請求権:請求権ごとに異なる訴訟物を構成

(3)新訴訟物理論
  • 学説では多数説。
  • 同一の事実関係から複数の請求権が発生する場合であっても、実体法秩序が1回の給付しか認めていないのであれば、この給付を受ける法的地位又は受給権を1個の訴訟物として把握するべきとする。紛争の蒸し返し及び二重の認容判決を回避。
  • 批判:裁判所の釈明義務拡大の可能性、請求権の実体法上の法的性質が不明

訴訟類型と訴訟物理論

(1)給付訴訟の訴訟物
  • 新訴訟物理論によれば、複数の請求権によって基礎付けられ得る一回の給付を求める地位または受給権が訴訟物を構成する。

ex.500万円の支払を受ける法的地位(の存否)

(2)形成訴訟の訴訟物
  • 新訴訟物理論では、実体法が定める個々の形成原因が訴訟物になるのではなく、一定の法律関係変動を求める地位が訴訟物を構成する。
  • 旧訴訟物理論では、形成原因が訴訟物であり、形成原因が異なれば、求める結果が同じでも別個の訴訟物を構成する。

ex.離婚の訴え:離婚を求める地位が訴訟物であり、民770条1項の離婚事由はこのような地位を基礎づける法的観点にすぎないとする。

(3)確認訴訟の訴訟物
  • 実体法上の権利の存否を確認することによって紛争を予防し、また、抜本的に解決すること目的とする結果、いずれの説でも実体法上の権利が1個の訴訟物を構成する。
  • ただし、所有権につき、取得原因のいかんにかかわらず、同一の土地所有権である限り一個の訴訟物とするのが判例・通説。

処分権主義

  • 処分権主義:訴訟の開始(「訴えなければ裁判なし」及び「不告不利の原則」)、審判の対象・範囲、判決によらない訴訟の終了に関する決定を当事者に委ねる考え方。
  • 訴訟物たる権利ないし法的関係は私法の適用を受けるものである結果、私的自治(当事者の意思を尊重し国家の不当な介入を避ける原理)が妥当。

cf.訴訟要件に関する処分権主義:訴訟要件を欠く場合、裁判所は「訴訟判決(訴え却下判決)」をすることになるが、被告による訴え却下の申し出がない場合でもかかる判決をすることが許されるか。→原告による訴え提起には、訴えの適法性についての審判を求めるという意思も含むと解する。

 処分権主義の機能

当事者が申し立てていない事項については判決することができない(246条)原告の意思を尊重するという意義と全部敗訴した場合の危険の限度を予告し、それによって訴状送達を受けた段階で、被告がかかる危険を考慮した上で、訴訟追行の仕方を決めることを可能にする意義。

訴訟の開始の効果

訴えの提起の効果

訴訟係属の発生:特定の訴訟物が、特定の裁判所で審理判決される状態。被告への訴状の送達により生じる。被告が訴え提起について了知する機会を与えられないまま訴訟係属が発生することを防ぐ趣旨。

時効の中断の効果

民法147条1号は「請求」によって取得時効及び消滅時効の期間が中断すると定める。民訴147条は「訴えを提起した時」=裁判所に訴状を提出した時点でその効果が生じるとする(従って訴訟係属の発生を待たない。)。 

  権利行使説:訴状の提出により権利行使の態度が明確になるとする説

  権利確定説:たまたま訴訟の進行が遅れたことにより訴訟中に事項が完成するのは相当ではないことから訴えの提起時に時効中断効を発生させたものだとする説

なお、時効の中断は訴訟物に及ぶ。ex.所有権確認請求訴訟の提起により被告の取得時効は中断。判例では、債権不存在確認請求訴訟において、被告が債権の存在を主張し、棄却判決を求めた場合は、被告が債権の存在を主張した時から消滅時効は中断するとした(大判昭和16年2月24日)。

  • 訴訟物たる権利の判断の前提となる権利について時効中断の効果:

  権利確定説:伝統的には否定。肯定する学説もあり。

  権利行使説:明確な権利行使の態度が認められる限り肯定。

判例では、所有権に基づく土地明渡請求訴訟提起は所有権の取得時効の中断する効果を持ち、根抵当権設定登記抹消請求訴訟における被告による被担保債権の主張は当該債権の消滅時効を中断する効果を持つとした。

  • 時効中断の効果は訴えの却下または訴えの取下げがあった場合は失われる(民149条)

  権利行使説:訴えの取り下げの場合、権利行使が行われなかったとみなされる。却下の場合は、不適法な訴えの提起では権利行使として認められない。

  権利確定説:判決によって権利が確定する余地がなくなったためと解される。

出訴期間遵守の効果

遵守の効果は訴訟提出時に発生し(147条)、訴えの取り下げ又は却下によって遡って失われる。ex.占有の訴え(民201条)、嫡出否認の訴え(民777条)

その他の実体法上の効果

善意占有者の果実取得(民189条1項)は、本権の訴えを提起され敗訴した時は、訴えの提起の時から悪意の占有者とみなされる(民189条2項)法文上は訴え提起時に悪意が擬制されるが、訴状送達時点と解すべき。

訴訟係属の効果

裁判所の審理義務、二重起訴の禁止(142条)、補助参加、独立当事者参加、共同訴訟参加、訴訟参加、訴訟引き受け、訴えの変更、中間確認の訴え、反訴など。

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(2)訴訟手続の開始 I 【民事訴訟法】

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独学で学んでいた民事訴訟法のまとめです。大学時代に民訴を取らなかったというちょっとした後悔から手をつけて見たもののまさに眠訴で昼休みに読むものじゃなかったですね。

 

訴えの概念

訴え:裁判所に対して、他の者に対する特定の権利または法律関係の主張を提示し、これに基づいて一定の内容及び形式の判決を求める申立て。

ex.原告が、裁判所に対して、被告に対する契約から生じた請求権の主張を提示しつつ、これに基づいて被告は原告に対し金銭を返還せよ、という内容及び形式の判決を求める申立てを行う場合

cf.請求:原告が被告に対してする特定の権利主張。これに加えて裁判所に対する一定の内容及び形式の判決の要求を含む広義の請求もあり。

訴えの類型

大きく分けて給付の訴え、確認の訴え、形成の訴えに分類。

給付の訴え

被告に対する給付請求権の主張に基づいて、被告に対して一定の作為・不作為を命じる判決を求める申立て。

「現在の給付の訴え」と「将来の給付の訴え」:事実審の口頭弁論終結時に履行すべき状態にあるか否かで区分。ex.期限未到来の請求権や停止条件付請求権などが後者

給付判決は執行力及び既判力を有するが、棄却する確定判決は既判力を有するが、「確認判決」であり執行力や形成力を持たない。

確認の訴え

特定の権利の存在または不存在の主張に基づいて当該権利の存否の確認する判決を求める申立て。

「積極的確認の訴え」=所有権存在確認請求などと「消極的確認の訴え」=債務不存在確認請求などに区別

判決には既判力があり、紛争の基本となっている権利の存否を確定することで派生紛争を含めた紛争を根本的に解決する機能や紛争予防機能がある。

形成の訴え

一定の形成原因の主張に基づいて、裁判所に対して一定の法律関係の変動をもたらす判決を求める申立て。

「実体法上の形成の訴え」=離婚など変動すべき法律関係が実体法上のものである場合と「訴訟法上の形成の訴え」=再審の訴えなど訴訟法上のものである場合とがある。

形成判決:判決で宣言された法律関係の変動が生じる。形成力は請求認容判決のみにあり、請求棄却判決は確認判決。

訴え提起の方式

訴状の裁判所提出(133条1項)

口頭での訴え提起は許されない(簡易裁判所を除く。)。訴え提起には所定の手数料を裁判所に納付しなければならず、手数料は、訴訟の目的の価額(訴額)に応じて定められる。(民訴費3条)

訴額:原告が訴えによって主張する利益によって算定(民訴費4条①、民訴8条①)請求が全部認容され、その内容が実現された場合に原告にもたらされる直接の経済的利益を指す。果実、損害賠償、違約金または費用の請求が訴訟の附帯の目的であるときは訴額に参入しない。(9条2項)財産上の請求でない請求(ex.離婚)及び訴額算定が困難が極めて困難なもの(ex.住民訴訟)については160万円とみなされる(民訴費4条2項)。

訴状の記載事項

当事者及び法定代理人と、請求の趣旨及び原因を記載(133条2項)これらの記載の欠缺は訴状却下の原因となる。必要的記載事項(137条)

(1)当事者及び法定代理人

原告及び被告が他の者から認識できる程度に特定したものでなければならない。訴訟代理人の記載は、その欠缺が訴状却下の原因になるという意味での必要的記載事項ではない。

(2)請求の趣旨及び原因

請求の趣旨:原告の要求する判決の内容及び形式の表示。 ex.「~支払え」「確認する」  

請求の原因:原告による権利主張を特定する事実。請求を理由づける事実についても具体的に記載することを求める(民訴規53条)間接事実も記載することが防御の対象が明らかになり訴訟の円滑な進行に資するが、欠けていても訴状却下の原因とはならない。

請求の特定:当事者によって特定された事実についてしか判決することができない(=処分権主義)のため不可欠。金銭の支払いを求める訴えについては数額を訴状に明記することが必要。金銭債務不存在確認訴訟の場合は明記せずとも不適法とまではいえない。

訴え提起後の手続

事件の分配後、所管裁判長は訴状の必要的記載事項に不備がある場合は相当期間内に補正をするよう命じなければならない(137条1項前段)補正なければ却下(同2項)即時抗告可能(同3項)

訴状の送達:副本を被告に送達(138条1項)補正命令あり。

訴状が適式であっても当事者のその後の訴訟活動によって訴えを適法とすることが全く期待できないような場合、裁判長は送達前に判決を持って却下できるとした判例あり(最判平成8年5月28日)。

口頭弁論期日の指定(139条):訴え提起後30日以内が原則。

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(1)民事訴訟とは何か【民事訴訟法】

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独学で学んでいた民事訴訟法のまとめです。大学時代に民訴を取らなかったというちょっとした後悔から手をつけて見たもののまさに眠訴で昼休みに読むものじゃなかったですね。

 

民事訴訟の意義

目的と機能

民事訴訟制度:民事上の紛争を解決するために社会が設けた公的な手続

cf.「社会があるところに必ず法があり」→裁判例の蓄積が法の形に結晶化「法の歴史は裁判の歴史」

民事訴訟の目的論:権利保護説、私法維持説、紛争解決説、多元説、目的論棚上げ説などの学説が乱立 → 目的よりも機能について正しく認識すべき。

民事紛争解決に関わる諸制度

裁判外紛争解決ADR: Alternative Dispute Resolution)と呼ばれる裁判外の紛争解決手続。

(1)調停

第三者が仲介または助力する形態による合意型の紛争解決手段。当事者の合意に基づく紛争解決であることから感情的なしこりが残りにくく、また解決結果に同意することから任意履行が得やすい。

(2)仲裁

第三者である仲裁人に紛争解決を委ね、仲裁人の判断に服する旨を合意して行う形態の紛争解決手段。「裁断型」ではあるが当事者双方が合意をしなければ仲裁を行うことができない点で民事訴訟と相違する。手続は仲裁法により規律。仲裁判断は確定判決ど同一の効力を有し、一定の手続を踏めば強制執行も可能。当事者は仲裁地や仲裁機関を自由に選ぶことができ、また、手続きについても非公開とできるなど柔軟かつ自由度が高いため、国際的な企業間の商事紛争にて多用される。

(3)民事訴訟

「強制的」かつ「最終的」な紛争解決手段。強制的=手続の開始及び強制執行。最終的=手続開始に当事者の合意を要しないことから民事に関する紛争解決の最後の受け皿として機能。その他、手続の厳格性=高い明確性及び透明性、再審理の保障など。

民事訴訟法の法源

  1. 形式的意義の民事訴訟法:「民事訴訟法」という名称の法典(平8法109) 
  2. 実質的意義の民事訴訟法:民事の手続法の総体 ex.非訟事件手続法、家事事件手続法、民事保全法、民事執行法、破産法、裁判所法

 cf.慣習及び判例:実体法の世界では慣習法規についても法源性を認める場合あり(商1条2項、通則法3条等)。民事訴訟においては法源性を否定=公法上の法律関係における手続の安定性、透明性、画一性の要請あり。判例は法源性は否定するも先例として事実上の拘束力を有する=法源的機能ないし事実上の法源。

 cf.民訴318条①及び337条②等などの制定法が用いる「判例」は、「主論」の判決理由中で示された法律上の判断のうちの結論部分(結論命題)と結論命題の不可欠の前提となる直接的な理由部分に限るとする学説が有力。「法源的機能」としての「判例」については、制定法上の「判例」よりも外縁が緩やか。 

機能的分類

訓示規定

それに違反しても訴訟上の効力には影響が生じない(=違反しても行為や手続が無効とならない又は制裁が設けられていない)規定。ex.訴訟手続の計画的な遂行(民訴147条2)、判決の言渡し(251条①)、争点整理手続後の説明義務(167条等)

効力規定

それに違反したときは、行為や手続が無効になるなど一定の影響が生じる規定。

  • 強行規定:裁判所の裁量や当事者の意思でその効力を変更することができない。訴訟制度の根幹や原理、裁判所の正統性の基礎となる規定など遵守が強く要請されるもの。ex.専属管轄、口頭弁論の開始、当事者能力、訴訟能力
  • 任意規定:当事者の合意により規定内容を変更することや異議を述べないことで不問に付すことができる規定。前者について、「訴訟上の合意」又は「訴訟契約」と呼ばれ、民事訴訟では原則許されないが、専属管轄を除く管轄の規定や控訴権の規定は例外的に任意規定。後者について、訴訟法に固有の意味における任意規定であり、責問権の放棄・喪失(90条)という。

判決手続の基本構造

判決手続

当事者間の紛争の対象である私法上の権利関係を確定することにより、紛争解決のための基準(=判決)を作成する手続。

判決手続の基本理念

(1)公正と効率
  • 公正:「適正」=真実に即した裁判であることと「公平」=裁判所が平等に当事者を扱うこと。
  • 効率:「迅速」=手続が不当に停滞・遅延しないことと「経済」=当事者の有形無形の負担を低減すること。
(2)義誠実の原則:民訴2条

 相手方の信頼を裏切らないように誠実に行動するべきとの考え方。判例法理により事件の個別性を超えた類型的適用が認められるようになった。

(3)手続保障

憲法32条が保障する「裁判を受ける権利」を具体化するために当事者に手続主体としての地位を保障すべきとする理念。特に、当事者権の中核たる弁論権=主張・立証の機会を与えられる権利を保障すべき。

特別手続

通常の手続の他に設けられた特別の手続

  • 簡易裁判所の手続:口頭による訴えの提起(271条)、準備書面の義務なし(276条①)、一定の書面審理(277条)
  • 人事訴訟の手続:身分関係の形成・存否の確認のための特別法。客観的な真実発見の要請が高く、当事者自治の要素を後退させる必要、手続公開の制限、画一的な法律関係の確定。
  • 行政訴訟の手続:行訴訟。釈明処分の特則(同法23条の2)、職権証拠調べ(同24条)、判決効の第三者への拡張(同32条1項)
  • 各種の略式手続:手形・小切手訴訟、少額訴訟、督促手続

訴訟費用

意義

「民事訴訟費用等に関する法律」で定められた訴訟に要する費用。裁判費用=裁判所の司法サービスの提供に要する費用と当事者費用=当事者が支出する費用のうち訴訟費用として法定されているもの。

 cf.弁護士に対する報酬:訴訟費用とはされていない。不法行為訴訟において、判例によれば、「諸般の事情を斟酌して相当と認められる額」を不法行為と相当因果関係に立つ損害として求めることができる。

敗訴者負担の原則(61条):相手方は負担者に対して事故が支弁した費用の弁償を求める請求権を取得。

一部敗訴の場合は、裁判所の裁量による(64条)。共同訴訟人は原則等分だが、裁判所は事情に応じて連帯や一部負担とすることができる(65条)。

訴訟費用確定の手続

本案の終局判決の主文において、職権で訴訟費用の全部について負担の裁判をする(67条1項)。上訴裁判所は、裁判を変更するとき原審との総費用につき裁判する(同条2項)。訴訟費用の負担の独立の上訴は不可(282条・313条)。

資力が不十分な当事者の救済制度

訴訟救助(82条)=一定の訴訟費用の支払いを猶予(83条)・法律扶助=一定の範囲で弁護士費用などの立て替えを行う制度。

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【国際法判例】ジェノサイド条約適用事件(ボスニア対セルビア:ICJ判決)

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国際法判例シリーズ。この記事では、ICJ判決のジェノサイド条約適用事件についてまとめています。

【事件名】ジェノサイド条約適用事件

【当事国】ボスニア・ヘルツェゴビナ v. セルビア・モンテネグロ

【判決日】国際司法裁判所(ICJ)判決:2007年2月26日

国際法判例の記事一覧はこちらから>

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事実と経過

判旨

ジェノサイドの存在

  • 条約第1条は、締約国にジェノサイドを防止し、処罰する義務を定めるが、条約は、締約国にジェノサイドを実行しないことも義務付けていると解釈。
  • 条約第2条によると、ジェノサイドとは、①「国民的、民族的、人種的又は宗教的集団」の、②「全部又は一部に対し、その集団自体を破壊する意図」を持って、③集団構成員の殺害等列挙された行為をすること意味する。
  • スルプニカ共和国軍によるスレブレニツァの虐殺(1995年7月、約7000人のムスリムが殺害)については、旧ユーゴ国際刑事裁判所ICTY)がジェノサイドを認定した。裁判所は同認定を踏襲し、虐殺がジェノサイドであったと認定する。

集団の行為の国家への帰属

  • スルプニカ共和国のジェノサイド行為が、セルビアに帰属すると認定できれば、セルビアの国家責任を追及可能。
  • 国際慣習法及び国家責任条文4条に照らして、スルプニカ共和国がセルビアの国内法上の機関であったとは認定できない。
(1)行為の帰属基準
  • ニカラグア事件で判示したように、国内法上の機関でなくても、人又は集団が国内法上の国の機関の地位を持たない場合でも、事実上、国に「完全に従属」する場合には、当該集団の行為は国に帰属する。
  • しかし、スルプニカ共和国は、セルビアから支援は受けていたものの、虐殺時には限定的であるが独立性はあったのであり、「完全に従属」していたとは言えず、事実上の国の機関とは認定できない。
  • 国際慣習法である国家責任条文8条によれば、人又は集団が国の機関の地位を持たない場合でも、違法行為が国の指示又は指揮もしくは支配の下で行われたならば、当該集団の行為は国に帰属する。
  • 同条は、ニカラグア事件で判示した基準に照らして解釈され、「実効的支配(effective control)」が証明されなければならない。違法行為が国家に帰属するためには、違法行為を行った人又は集団によりとられた行動全般に対してではなく、違法と主張される個々の行為に対して国の「実効的支配」が行使された又は指示があったことが示されなければならない
(2)全般的支配と実行的支配
  • これに対し、ボスニアは、ICTY上訴裁判部のタジッチ事件判決(1999年)が判示した「全般的支配(overall control)」の基準の採用を主張した。
  • これは、集団殺害は多くの特定行為が異なる時と場所でなされることにより構成されるという特殊な性格を有することから、個々の行為に対して「実効的支配」が存在する必要なく、作戦全体に対して「全般的支配」が存在すれば十分であるというものである。
  • しかし、「全般的支配」の基準は、武力紛争の国際性の基準としては適切であるが、国家責任の基準としては説得力を欠く。国際違法行為の性格によりこれを国に帰属させる規則は変わるものではなく、「全般的支配」の基準は行為と国家の間に存在すべき結びつきをほとんど断ち切るという欠陥を有することから採用できない。
  • スレブレニツィアの虐殺はセルビアの関与の下に行われたが、それは実効的支配に該当するものではなかった。
  • 以上から、スルプニカ共和国のジェノサイドはセルビアに帰属しない

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ジェノサイドを防止する義務

  • ジェノサイドを防止する義務は行為の義務であり、「相当の注意」義務を果たしたか否かにより国家の責任の有無が決定する。この防止義務の履行は、ジェノサイドの行為者に対する影響力等によって評価される。
  • また、防止の手段がジェノサイドの防止に十分であったか否かは無関係である。この義務は、国家がジェノサイドの危険を知っていたか、通常知るべきであったことが必要である。
  • セルビアは、スルプニカ共和国と強固な関係にあり「影響力」を行使できる立場にあったこと、当時の状況からスレブレニツァが占領された時点でジェノサイドが行われる危険を了知していなかったとは考えられないこと等から、セルビアはジェノサイドを防止するために措置をとらなかったことにより防止義務に違反した。

義務違反に対する賠償

  • セルビアの防止義務違反とスレブレニツァのジェノサイドの間に因果関係はなく、防止義務を履行すれば虐殺を回避され得たとは証明されなかった。故に金銭賠償ではなく、満足(サティスファクション)が適切である。
  • 判決主文において、セルビアが防止義務を履行しなかったとの宣言がサティスファクションを構成する。

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