Dancing in the Rain

Dancing in the Rain

Life is not about waiting for the storm to pass but about learning how to dance in the Rain.

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Dancing in the Rain 雨の中で踊ることについて

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せっかくはてなブログをProにしたので気合を入れて書いていこうと思っているのですが、過去の記事の編集ばかりに勤しんでいて(これはこれで楽しい)今はわりと時間があるにも関わらず新しい記事をなかなか書けないなと思っています。

これまで国際法とか判例とかアカデミックなものばかり書いてきましたが、今回は、ちょっと趣向を変えて、このブログのタイトルについて書いてみようかなと思います。国際法関連の記事しか(ほぼ)読まれていないこのブログではありますが、ゆくゆくは雑記系ブログにしていきたい、できればこれがその嚆矢とならないか(昔、吹き矢と読んでいた嚆矢を使ってみたかっただけ。あなたは正しく読めますか。)。

Dancing in the Rain とは

さて、このブログのタイトルですが、なぜ Dancing in the Rainなのかと気になった人がいるかもしれません(いないかもしれません。)。人によっては、むむ、これはどこかで聞いたことあるぞ、となりますね。それでグーグル先生かなんかで検索すると画像が出てくるわけです。土砂降りの雨の中、持っている傘をグルグル振り回して、ご機嫌にタップダンスを踊りながら街を駆けずり回っている若かりし頃のジーン・ケリーの姿を。ちなみに、もう少し年をとったジーン・ケリーが好みという場合は、ロシュフォールの恋人なんてのもあります。さらに往年になるとザナドゥなんてのもあります(流石にこれはマイナーすぎるか。)。別にジーン・ケリーの回し者(そんなのがいればだけど)ではありません。

それから、そのとても有名な場面で、シーング・イン・ザ・レイン、と歌うんですよね。

違うんです。それは、雨に唄えばSingin' in the Rain)なんです。確かにこの映画、歌よりもダンスの方がメインなんじゃないかというくらい歌って踊るミュージカルですが(個人的にはGood MorningとかMake 'Em Laugh とかの明るいナンバーの方も好きです。)。

ところでこのシング・イン・ザ・レインという曲は、スタンリー・キューブリック監督の「時計仕掛けのオレンジ」のとある暴力的なシーンでもとても効果的に使われていて(アドリブでこの曲を歌っていたというのは有名な話)なんだかトラウマになってしまったという人もいるとか。それくらい映画史に残る衝撃的なシーンなんじゃないかと。

ちなみに、雨に唄えばも時計仕掛けのオレンジ(なんならロシュフォールの恋人も)もU-NEXTで見れます(2020年2月現在)。

 

 

話を元に戻すと、歌うんじゃなくて踊るんです。

雨の中で踊るんです。それでもこれだけでどういう意味か考えろと言われてもちょっとフェアじゃないですね。というのもこのタイトルにはちゃんと引用元があります。ずばりそれは、英国の作家であるとともに世界で最も重要なドールハウスの専門家である(とwikiに書いてある) Vivian Greene 氏による以下の一節です。

"Life isn't about waiting for the storm to pass. It's about learning how to dance in the rain" 

ちょっとそれっぽくなりました。なんか人生のこと言ってるぽいぞ、となります。

それでは少し英語のお勉強タイム。ここでは、it's about -ingという割と頻繁にアメリカでよく耳にする表現が使われています。これに all を about の前につけて be all about-ing(あるいは名詞)としてもよく使います。ただ意味的には強調を加えるだけで、日本語では非常に訳出しづらいです(全然説明になっていない。)。例えば、Relationship is all about money(恋愛関係なんて金が全てだ)とか It's all about timing (何事もタイミングが大事)とか。

それじゃあここでこの一節を直訳してみるとこうなります。

人生とは、嵐が過ぎ去るのを待っていることが全てではない。それは、雨の中でどうやって踊るのかを学ぶことなのだ 

さて、ここからは解釈の問題です。それぞれの人生観に照らしながらこれを考えると、意味付けが微妙に異なってくるんじゃないのかと思うのです。

と、まあここで終わってもいいのですが、それだとほんとに英文和訳と映画だけのお話になってしまうので(英語については大したこと言ってないのだけれど)、野暮ですが僕なりの解釈を書きます。

嵐とは、生きていく上での困難や障害を指すんじゃないかと思います。それは待っていても待っていなくてもどこにいようとやって来ます。いついかなる時もそれは突然に無慈悲に宿命的にやって来るのです。でもだからといって、怯えていてはダメなんじゃないかと。じっとシェルター(あるいはどこか居心地のいい場所)に籠もって、その嵐が過ぎ去っていくのを文字通り待っているのは人生じゃない。雨の中で踊る。ポイントは、「その雨 the rain」すなわち、その嵐の雨の中で踊ることなんだと思います。

それから、実はもう一つポイントがあると思っていて(細かいですが)それは learning が使われていることです。ここでの learn は、単に学ぶというよりも、自分のものとして身につける、あるいは、マスターするといったもう少し踏み込んだ意味があります。とすれば、これは単に踊ることが大事なんだと言い切っているのではなくて、踊り方を身につけることを指しているともとれますね。

つまり、これまでのことを勘案すると、これは人生なんてどうせろくなことないんだから、うまくやり過ごせるように賢く生きないといけないよと、開き直った処世術を教えてくれているのかもしれません。

あるいは、「雨に唄えば」みたいにどれだけ雨風がひどかろうと嵐がやってこようと、その雨の中で踊って歌って楽しむ(楽しめるようにする)べきとシンプルに言っているのかもしれません。

時に辛く厳しい人生であるけれど、いつも楽しむ心を忘れない。僕は生来のポジティブ思考だからか、後者の解釈に親近感があります。人生楽しんだもの勝ち!YOLO! (You Only Live Once)みたいなところまではいけませんが。そんなこんなで、Dancing in the Rain というのは僕の中のいくつかある座右の銘みたいなものになっています。

最後に、写真の話。ブログのトップ画像にも使っているものですが、雨の写真がないかと探していたらこれがありました。アリゾナ州のフェニックス土産に買った小さなサボテンたち。はるか2000マイルを超えて我が家の窓際にやって来たタフで無口でクールなサボテンたち。雨上がりの青々とした木々もなんだか好きです。

【メモ】米国のイラン軍司令官殺害の合法性(国際法上の自衛権)

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トランプ米大統領のソレイマニ・イラン軍司令官殺害について主に国際法の観点からざっくりまとめてみました。

※2020年2月14日に米国政府から新たに発表された文書について追記しました。 

 

事実及び経緯

  • 2020年1月3日、米国は、イラク・バグダット国際空港へ移動中であったソレイマニ・イラン軍司令官を標的型ドローン攻撃により殺害。ソレイマニ司令官は、イラン革命防衛隊(IRGC)の対外工作を行うゴッズ部隊(Quds Force)の司令官であり、イラン国内外のシーア派勢力の軍事作戦において中心的役割を果たしていた。
  • これに対し、イランの最高指導者あるハメネイ師は米国に対する厳しい報復を宣言。これに応ずる形でトランプ米国大統領はイランの文化施設攻撃も含めた報復を示唆した。事態の悪化を受けて、イラクのアブドゥルマハディー・イラク首相は、同国における米軍駐留の同意の撤回を呼びかけた。また、米国務省は、イラクに滞在する全ての米国人に対し即時に同国を退去するよう勧告した。

国際法上の論点

米国による武力攻撃は、国際慣習法及び国連憲章51条上の自衛権により正当化されるか?

米国の主張

オープン・リソースで拾えるものをまとめると以下のとおり。

(1)トランプ米国大統領
  • 今回の殺害は、戦争を始めるためではなく戦争を止めるための攻撃
  • 殺害の根拠として、ソレイマニ司令官は、米外交官と軍人に対する邪悪で(sinister)差し迫った攻撃を計画していたため(ただし、主張された米国の4大使館の攻撃計画については、国防総省はその事実を否定。政権内で食い違い。)。
(2)米国防総省によるプレスリリース
  • 今回の攻撃は、大統領の指示による米国人を保護するための明白な自衛的行動。
  • イラン革命防衛隊は、米国が指定したテロリスト組織
  • ソレイマニ司令官は、イラク及び同地域における米外交官及ぶ軍人に対する攻撃を計画していた。
  • ソレイマニ司令官及びコッズ部隊は数千人の傷病者及び数百人の米国と同盟国の軍人の死亡に対する責任がある。
  • バグダッドの米大使館襲撃もソレイマニ司令官が承認したもの。
  • 今回の攻撃は将来のイランによる攻撃計画を抑止するもの。
(3)1月8日付国連安保理宛書簡
  • 国連憲章51条に従って自衛ための固有の権利を行使した。
  • 今回の攻撃は、イラン及びイランが支援する軍隊(Iran-supported millitias)による米国の軍隊及び中東地域における利益に対する、数ヶ月にわたるエスカレートする一連の武力攻撃(escalating series of armed attacks)に対抗するもの。
  • イランが米国及び米国の利益に対してさらなる攻撃を支援または実行するのを抑止するため。
  • イラン革命防衛隊ゴドス部隊が支援する軍隊の能力を低下させるため。
  • エスカレートする一連の武力攻撃には、2019年7月18日のホルムズ海峡を航行中であった強襲揚陸艦USS BOXERに対するドローンによる脅威及び同年6月19日のホルムズ海峡上の国際空域を飛行中の米海軍偵察機MQに対するミサイル攻撃を含む。
  • 今回の攻撃は、また、オマーン湾及びフジャイラ港の商船に対する攻撃及びミサイルと無人機によるサウジアラビア領域への攻撃を含む国際の平和と安全を脅かすイランの継続する攻撃に対するもの。
  • コッズ部隊が支援するカタイブ・ヒズボラは、2019年12月27日にキルクーク(Kirkuk)近郊のイラク軍基地攻撃により米民間人1名を殺害し、同年12月31日にはバグダッドの米大使館を襲撃した。

国際法上の自衛権

国際法上、武力の行使は一般的に禁止(国連憲章2条4項及び国際慣習法上の強行規範)例外的に、国際慣習法及び国連憲章51条自衛権行使による正当化。

(1)自衛権を扱った判例

判例】オイル・プラットフォーム事件(ICJ判決、2003年)

  • 攻撃がイランに帰属しなければならない。米国に立証責任。

  • 国連憲章51条及び国際慣習法上の「武力攻撃 armed attack」でなければならない。
  • 武力攻撃は、「最も重大な形態 the most grave forms」による武力の行使を構成しなければならない(米国は異なる見解を有しており、およそあらゆる武力行使は武力攻撃を構成すると一貫して主張している。)。

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判例核兵器使用の合法性事件(ICJ 勧告的意見、1996年)

自衛権は武力攻撃に対して均衡的(propoetionate)で、対抗するのに必要な(necessary)措置によってのみ正当化される。

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(2)その他一般的な要件

一般原則として、必要性(当該武力行使が正当な防衛目的を達成する上で最終手段であったこと)及び均衡性(受けた損害に対して当該武力行使が比例的であること)を満たさなければならない。また、国連憲章51条上の要件とはなっていないが、差し迫った(imminent)または、現在進行形の(on-going )武力攻撃であることが一般的に要件とされている。

さらに、終了した武力攻撃に対しては、急迫性及び必要性を満たさず自衛権行使は認められず、この場合の反撃は国際法上正当化しえない報復(retaliation)ないし復仇(reprisal)となる。従って、断続的な攻撃に対しては、武力攻撃でない対抗措置などの代替的手段によって対応しなければならない。

考察

そもそも過去の武力攻撃(イラクの米軍基地攻撃及び大使館襲撃)に対しては、現在進行形または差し迫った武力攻撃でないために自衛権を行使できない。仮に武力攻撃が継続していると考えた場合も自衛権発動の対象となる重大な形態な武力攻撃と言えるかが問題。

ソレイマニ司令官殺害の根拠となった「将来の計画」については、差し迫った武力攻撃とは言えないため自衛権行使の対象とはならない。また発生していない武力攻撃について必要性及び均衡性を検討することはできない。米国政府内での意見の食い違いから切迫性についても疑義があり、また、実際にいかなる情報に基づいて判断がなされたのかについても、機密を理由として事実が開示もされていないため判断できない(なお、戦争権限法上の議会報告についても機密扱いとされ公開されていない。)。

その他の論点

主たる検討事項である自衛権行使の問題の他に本件には様々な論点を想定しうる。

先制的自衛(preemptive self-defense)及び自国民の保護:濫用の恐れがあることから国際法上の武力行使の正当化根拠として一般的に認められていない。他方で、自国民の保護についてはその法的位置づけに争いがあるも多くの国家実行が見られる。

第三国による同意(consent):国家主権(territorial soverignty)の帰結として、他国の領域内における領域国の同意なき武力行使は認められないイラクの米軍に対する武力行使の同意は IS に対するもの。イランに対する武力行使を承認するものではない。意思がない又は能力がない(unwilling or unable)の基準による正当化?

武力行為の帰属:米大使館襲撃の行為主体はイランではなく、イランの支援する軍事的集団によるものなので、武力攻撃の責任がイランにあることを米国は立証しなければならない。この場合、行為の帰属基準は実効的コントロールの基準によるものと考えられる。

戦時国際法の適用:仮に米国とイランが交戦状態にあるとすれば、開戦法規(jus ad bellum)ではなく戦時国際法(jus in bello)ないし国際人道法(International Humanitarian Law, IHLが適用され、1949年ジュネーブ条約議定書によれば、ソレイマニ司令官は軍事指導者であり、正当な軍事目標として攻撃が正当化される。他方で、両国とも宣戦しておらず、また、戦争を開始する意図を有してもいないため、交戦状態(in armed conflict)にあると考えることは困難(ただしジュネーブ法自体は宣戦の有無に関わらずあらゆる武力紛争に適用。)。また、別の論点として、そもそもソレイマニ司令官殺害のドローン攻撃について、IHLか国際人権法(International Human Rights Law, IHRL)のどちらが適用されるかという問題もあり。

暗殺(assassination)の合法性:少なくとも平時においては違法と考えられる。主権平等及び相互主義を含む国際法の一般原則による。交戦時においては上記のとおり正当化可能性あり。なお、1976年の米国大統領令12333は、米国政府職員等による暗殺を禁止。暗殺の定義は規定されていないが、政治的指導者の違法な殺害を解釈される。米国務省は、ソレイマニ司令官の殺害は暗殺ではなく自衛的措置であることを説明。 

米国内法上の論点戦争権限法(WPR)上の報告義務、2002年武力行使承認(AUMF)による正当化の可能性。憲法第2条の最高司令官(Commander in Chief)の権限による単独武力行使?事実の不足。

追記:国防承認法第1264条に基づく報告

2020年2月14日、米国政府は、国防承認法(National Defense Authrization Act, NDAA)第1264条に基づく報告を議会に対して提出。同報告は武力行使に関する法的枠組みを説明するために義務付けられているもの。従来の政府の説明に関連して、本報告のポイントは以下のとおり。

差し迫った(imminent)攻撃の削除

大統領の軍事行使権限は、合衆国憲法第2条の最高司令官の権限に基礎。これによれば、大統領は、米国の重要な国益を保護するため攻撃又は差し迫った攻撃の脅威に対して武力を行使することができるとするが、具体的に差し迫った脅威があったという記載はなし

今回の武力行使は、米国及び中東地域における米国の利益に対するエスカレートする一連の攻撃(an escalating series of attacks)に対するものであり、その目的は、米国民の保護、イランの将来の攻撃の抑止、イランが支援する武装勢力の弱体化などであるとする。

2002年の武力行使承認(AUMF)の適用

  • 武力行使の根拠として、憲法第2条とともに、2002年の武力行使承認を援用。
  • 2002年AUMFは、イラクによる米国の国家安全保障に対する脅威を防ぐために武力行使を承認するものであり、当初、その脅威はサダム・フセインによるものであったが、米国は、安定的で民主的なイラクを確立し、テロリストの脅威に対処するため、武力行使を同法に長く依拠してきた。そうした脅威は、イラクのみならず、イラクにおける武装勢力やテロ組織などの米国に対する脅威に対しても適用可能である(→これまで政府はイランに対して適用できないとしていた。)。

国際法上の自衛権

国連憲章第51条の自衛権を援用。ただしその対象は、イラン及びイランの支援する武装勢力(Iran-supported militias)によるエスカレートする一連の武力攻撃とする。武装勢力の帰属(attribution)の問題については触れていない。

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【メモ】米国大統領の軍事力行使権限

f:id:hiro_autmn:20200508005837j:plain米国の国外における軍事行動の合法性について米国内法(特に合衆国憲法との関係)の観点から考えてみたいと思います。 

 

概論

  • 合衆国憲法第2条は、大統領に対し、最高司令官(commander-in-chief)として米国陸軍と海軍の指揮権及び外交権限 (foreign relations power)を規定。
  • 他方で、同1条は、連邦議会に対して、宣戦(declear war)権限を規定している。両者の関係について解釈には依然として争いがあるが、歴史的慣行(historical practice)から、大統領が特に国外で軍事力を行使する場合には、事前の議会の承認(Congressional Authorization)が必要であるとされてきた(ただし、他国の侵入に対する反撃、すなわち自衛のための軍事行動を除く。)。
  • なお、裁判所は、議会承認なき大統領権限の一方的行使による軍事行動の合憲性についてこれまで判断していない。

Section 2 of Article II

“The President shall be Commander in Chief of the Army and Navy of the United States, and of the Militia of the several States, when called into the actual Service of the United States”

Section 8 of Article I

11: To declare War, grant Letters of Marque and Reprisal, and make Rules concerning Captures on Land and Water;

憲法上の大統領権限に基づく一方的軍事力行使

  • 議会の承認がない場合に大統領は最高司令官としての独自の権限に基づき軍事力を行使することが可能であるか、2011年のリビア空爆に対する司法省法律顧問局(Office of Legal Counsel, OLC)の見解は、歴史的実行に基づく二段階テスト(①国益要件、②戦争要件)を提示(ただし、行政府による独自の見解であり法的拘束力はなし。)。 

国益要件

  • 武力行使によって重要な「国益national interest)」が保護される(vindicate)と大統領が判断すること。行政府は伝統的に国益を広く解釈してきた(ex.朝鮮戦争(1950):効果的な国際機関としての国連の継続的存在への最も重要な米国の利益、シリア空爆(2018):地域の安定(regional stability)と国連安保理決議の信頼性と有効性の支持。)。
  • さらに、シリア空爆についてのOLC意見(2018)では、人道的災害(humanitarian disasters)の緩和も近年の実行に照らして認められるとする。

戦争要件

  • 当該武力の行使が「戦争 (war)」を構成しないこと(議会の宣戦権限に抵触しないこと。)。
  • そのためには、軍事行動の想定される「性質、範囲、期間 (nature, scope and duration)」が戦争の域(threshold)に達していないことが必要。長期的かつ実質的な軍事行動であり、米軍構成員が実質的な期間において重大な危険に晒される場合は、戦争と判断可能。

議会によるコントロール

  • 大統領の独断による軍事力行使に制限をかけるため、議会は憲法の範囲でないで抵抗手段として何ができるか議論されてきた。
  • ただし、議会には戦争責任を負いたくないという面もあり、伝統的には戦争権限について大統領と積極的に争うことはしてこなかった。

戦争権限法 War Power Resolution, or WPR (1973年)

主に手続面を規制するものであるが、立法者が意図したように機能しているとは言い難い。

(1)制定の背景

ベトナム戦争時、ニクソン大統領の拒否権(veto)を覆して成立。歴代大統領は、同法を憲法違反として批判し、遵守しない傾向。なお、同法の趣旨は、「憲法起草者の意思を補完し、議会と大統領による集団的判断を確実にするため」であって、武力行使を承認するものではない。

(2)主な規定内容 

戦争権限法は、①宣戦布告がある場合、②特定の法律による承認がある場合、③米国、米国領域あるいは軍隊に対する攻撃による国家の非常事態の場合に限って大統領の武力行使を容認し、その上で以下の手続事項を規定。

  • 大統領は軍事行動の前に議会に協議(consult)するよう努める。
  • 大統領は、軍事行動の開始等から48時間以内に議会に対して報告しなければならない。
  • 軍事行動 (hostilities)は、60日以内に議会により承認又は延長されない限り(米国への攻撃により議会が物理的に機能していない場合を除く)終了しなければならない(30日の撤退期間あり。)。なお、軍事行動の構成要件は大統領により判断(ex.イエメン紛争におけるサウジ軍への空中給油、インテリジェンス・サポートは該当しない。)。
  • 大統領は、軍事行動を継続する場合、6ヶ月ごとに議会に対し状況を報告しなければならない。
(3)問題点
  • そもそも軍事行動(hostilities)の定義が規定されていないため、48時間以内の報告及び60日のカウントダウンの始期につき争いがある。この点について行政府は、軍事行動が終了しなければ当該行動の性質は定められないと主張している。
  • 2019年4月、議会は、大統領に対し、イエメンでの軍事行動の終了を命じる決議を議決したが、大統領の拒否権によりこれを退け、かつ連邦議会は再議決することもできなかった。
  • 2020年1月のソレイマニ・イラン軍司令官殺害の際の軍事行動開始の議会への報告が機密扱いとされたことで問題となったが、少なくともWPRによれば公にすることは要件となっていない。
  • 議会は、大統領の拒否権行使を避けるべく大統領の署名を必要としない共同決議(concurrent resolution)により軍事行動の終了を議決(ただしこれがWPRが規定する決議に該当するかについては議論あり)することができるが、この場合の法的拘束力はない。

予算編成権限(Appropriations Power) によるコントロール

議会は、大統領による議会承認なき軍事力行使を防止するために、軍事費の支出を削減、支出の条件付けあるいは特定使途について限定することで対抗。ex.対特定国に対しては使用できないとする修正案など。ただし、議会は、軍事費の削減及び制限については消極的であり、実効性に疑問。

国際法上の制限

合衆国憲法第2条3項によると、大統領には、誠実に法を執行する義務Take Care Clause)があり、同条における法(Laws)は、国際法たる国連憲章の規範を含む。したがって、武力行使の禁止(憲章第2条4項)と自衛権(同第51条)から、必要性及び均衡性が要件となる。

議会による承認

2001年(対9.11テロ)と2002年(対イラク)のみ。大統領の最高司令官としての権限を強化するものとして理解(最高裁判例 Yongstown v. Sawerによるところの議会意思 (Congressional intent)の表明。)。

2001年の軍事行使権限承認 (Authorization of Use of Military Force, AUMF)

  • 9.11テロ後に制定 2001年9月18日(ブッシュ政権
  • 「2001年9月11日に発生したテロ攻撃を計画し、承認し、関与し、援助した、または、そのような組織及び人を保護した(harbored)と大統領が判断する国家、組織、又は人に対し、そのような国家、組織又は人による将来のいかなる米国に対するテロ攻撃を未然に防止するため、あらゆる必要かつ適切な武力の行使を容認する」(all necessary and appropriate force against those nations, organizations, or persons he determines planned, authorized committed or aided in the Sept. 11 attacks”
  • これまでにアルカイダ及びアルカイダのネットワーク、アルカイダアフガニスタンにおいて匿っていたタリバン、及びその関連勢力(associated forces)に適用。
  • なお、最高裁はHamdi v. Ramsfeldにおいて、武力の行使は、国際法に整合的な場合に限って認められるとした。

2002年の軍事行使権限承認(AUMF)

  • イラクによる継続する脅威に対する米国の国家安全保障を防衛し、イラクに対するすべての安保理決議を強制することを目的とする。(to use the Armed Forces of the United States as he determines to be necessary and appropriate in order to … defend the national security of the United States against the continuing threat posed by Iraq)

AUMFの射程

  • 2014年、オバマ政権は、イスラム国(IS)に対する解釈拡大。トランプ政権も踏襲。オサマ・ビンラディン本人と直接関係があり、ビンラディンが生存時の紛争を継続しており、かつ、米国に対して紛争を継続していることが理由(他方で、オバマ政権は、2001年AUMFとは別に、議会に対して承認を要求。)。
  • 国務省は、2019年6月28日の書簡において、2001年及び2002年AUMFは、対テロ作戦に従事する又は安定的で民主的なイラクを確立するための作戦に従事する米軍又はパートナー軍を防衛するのに必要である場合を除いて、現時点において、イランに対して軍事行動を承認するものではない、とした。

まとめ

  • 歴史的慣行から、大統領が軍事力を行使するためには事前の議会承認が必要であるが、実際に承認を得た例は限られる(2001年と2002年のみ。)。
  • 行政府は、国益保全するための戦争未満の軍事力行使(自衛権の発動を除く)は、大統領の憲法上の最高司令官の権限として認められると説明。
  • 法的拘束力はないものの、政府の見解に対し争うことは、立法府及び司法府ともに消極的。大統領の一方的軍事力行使を防ぐための議会の抵抗手段として、戦争権限法(WPR)や予算編成権があるが実効的とはいえない。
  • また、国際法上の制限として、軍事力行使について必要性と均衡性を満たさなければならないが、その判断基準については曖昧であり実質的な制限となるかについては疑問。

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(5)内国民待遇 II 国内規制 GATT 第3条4項【国際経済法】

 

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国際経済法(WTO法)シリーズ第4段です。国内規制についてまとめています。英語で勉強したので日本語訳は少々おかしいところがあるかもしれません。

 

国内規制(Internal Regulations)とは

  • 輸入品の国内での販売等に関する法律、規制、要件は、輸入国の国内における同種の産品よりも不利でない (no less favourable) 待遇を与えるものなければならばい。
  • 国内市場において輸入品と同種の産品に対して同じ競争環境を担保する趣旨。例えば、輸入品であるウイスキーに対して、国内の同種の産品である焼酎よりも高い酒税を課すことは、輸入品に対して不利でない待遇を与えていないために本条違反となる。

根拠規定:GATT 第3条4項

いずれかの締約国の領域の産品で他の締約国の領域に輸入されるものは、その国内における販売、販売のための提供、購入、輸送、分配又は使用に関するすべての法令及び要件に関し、国内原産の同種の産品に許与される待遇より不利でない待遇を許与される。

 ただし、例外として第20条の一般的例外条項が適用される可能性あり。

GATT 第3条4項違反の要件

次の3要件が満たされる場合、GATT第3条4項違反を認定。

( i )産品に影響を与える国内規制であること(規制の存在)

( ii )同種の産品であること及び輸入品が国内産品と競合関係にあること

   判断基準ー物理的性質、消費者の嗜好、認識、間税分類など 

( iii )不利な待遇を与えていること(効果だけでは不足、競争関係に不利な影響を与えることが必要)なお、保護要件は不要(ECーシールズ) 

主要判例

DS135:ECーアスベスト(2001)

【事実】

  • 仏政府はアスベストの製造、使用、輸入を禁止する政令を制定。アスベストをフランスに輸出していたカナダは、当該政令GATT第3条 (NT)、11条 (数量制限)及びTBT協定 (技術的障害) 違反として主張。

【パネル報告】

  • アスベストに類似する4種の産品と、①性質上の類似性、②最終用途、③消費者の選好及び購買慣行、④関税分類といった観点から比較し、類似性を認定。
  • 第3条4項違反(ただし、第20条(b)で正当化)

 【上級委報告】

  • 前提として、同種の産品と不利な待遇を受けている輸入品は競合関係になければならない
  • 第3条2項については、同種の産品と直接競合・代替品 (DCS) を区別して規定しているため、前者を狭く解するとしたのに対し、同条4項の同種の産品については、そのような区別がないため広く解釈する余地あり。アスベストの発がん性は消費者の選好の観点から差異があり、他の類似品と同種の産品であるとは言えない。
  • カナダは、同種の産品であることの立証責任を負う。
DS400:ECーシールズ(2014)

【事実】

  • ECは、アザラシ製品のEC市場への導入を禁止。ただし、IC規定(先住民族によって狩猟されたアザラシ製品を対象)とMRM規定(海洋資源管理のために捕獲されたアザラシ製品を対象)の例外を設定。

【争点】

  • カナダ/ノルウェー産のアザラシが、グリーンランドと比べて不利となるので、第1条 (最恵国待遇) 、第3条4項及びTBT協定第2条1項違反を主張。EUGATT第20条 (a)及び(b)により正当化。

【ポイント】

  • 国内産業の保護目的は要件ではない。
  • 第3条は、輸入品に対する競争機会の平等を保護するものであり、「不利でない待遇」とは、輸入品に対して異なる扱いをするだけでは不十分。また、実際に不利な影響が存在することは立証不要。措置によるインプリケーションを評価。
  • 措置と競争機会への悪影響(detrimental impact)の間には真正な関係 (genuine relationship) がなければならない。
  • 措置自体の正当性は検討しない(第20条により判断。)。そのため当該措置に合理的な理由が存在した場合(国内規制には、WTO違反となるものであっても、例えば環境保護や公徳の保護など一見最もらしい正当化事由を背景にしている場合が少なくない)でも、一旦は同条で違反を認定し、その上で第20条の規定により違法性を阻却するという構造。

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(4)内国民待遇 I 国内税 GATT 第3条1項及び2項【国際経済法】

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国際経済法(WTO法)シリーズ第3段、国内税についてです。英語で勉強したので日本語訳は少々おかしいところがあるかもしれません。

 

内国民待遇 National Treatment(NT)とは

  • GATT 第3条1項は、課税及び国内規制の適用についての保護主義に対する原則、同条2項(及び付属書)は国内税、4項は国内規制についてそれぞれ規定。
  • 国内税については、輸入品が「同種の国内産品」に対して差別的に扱われる(=輸入品に対してより高い税率の国内税が課せられる)ことがないようにしなければならず、「同種性」がしばしば争点となる。また、直接競合品又は代替品については、輸入品と国内産品が「同様に」課税されなければならないと規定されており、この場合においても「直接競合性又は代替性」が争点となる。
  • 他にも、関税は第2条により認められているのに対し、国内税は第3条に規定があるため、両者の区別が問題となる。

GATT 第3条1項

締約国は、国税 (internal taxes) その他の内国課徴金と、産品の国内における販売、販売のための提供、購入、輸送、分配又は使用に関する法令及び要件並びに特定の数量又は割合による産品の混合、加工又は使用を要求する内国の数量規則は、国内生産に保護を与えるように (so as to afford protection to domestic production) 輸入産品又は国内産品に適用してはならないことを認める。

GATT 第3条2項

いずれかの締約国の領域の産品で他の締約国の領域に輸入されるものは、同種の国内産品 (like domestic products)に直接又は間接に課せられるいかなる種類の国税その他の内国課徴金をこえる(in excess)内国税その他の内国課徴金も、直接であると間接であるとを問わず、課せられることはない。さらに、締約国は、前項に定める原則に反するその他の方法で内国税その他の内国課徴金を輸入産品又は国内産品に課してはならない。

Ad Note2:(同種の産品でなくとも)課税品と直接競合するか代替品である製品が、同様に課税されていない (not similarly taxed) 場合でかつ、保護目的があるときも適用。

2の第一文の要件に合致する租税は、一方課税される産品と他方そのように課税されない直接的競争産品 (directly competitive) 又は代替可能の (substitutable) 産品との間に競争が行われる場合にのみ、第二文の規定に合致しないと認める。

GATT 第3条2項違反の要件

第3条2項第1文

  1. 国内税又は課徴金であること
  2. 全ての課税対象が同種の産品であること
  3. 国内産品を超える課税が適用されていること

第3条2項第2文

  1. 国内税又は課徴金であること
  2. 直接的に競争関係にあるか代替品であること
  3. 同様に課税されていないこと
  4. 保護目的であること(第3条1項)

主要判例

D S8/10/11:日本酒税事件(1997年)

【事実】

  • 日本の酒税法は、税率をアルコール度数により分類。ECは、ウォッカ、ジン、ラム及び焼酎は同種の産品(like products) であり、焼酎よりも高い税金を課していることは、GATT第3条2項第1文に違反すると主張。
  • また、同種の産品でないとしても、直競合品又は代替品(directly competitive or substitutable products) であるため、同条同項第2文に違反(ウィスキー、ブランディ、リキュールについても第2文違反を主張)。
  • これ対し、日本は、国内産業保護目的ではなく、スピリッツ類、ウィスキー、ブランディ、リキュールは、like products でなく、directly competitive or substitutable products でもない旨を主張した。

【論点】

  • 同種の産品及び直接競合品又は代替品の意義

【パネル報告】

  • 二段階アプローチ:① like products or competitive/substitutable products ② in excess or not similarly taxed
  • Like productsは厳格に解釈、その審査はケースバイケースだが、最終使用 (end uses)、消費者の嗜好 (consumer's taste and habits)、製品の特徴や性質が考慮要素として重要。
  • Directly competitive or substitutable products については、価格弾力性(elasticity of substitution) が重要となる。同様に課税されているかどうかについては、de minimis であるかどうかによる。
  • 第二文の保護目的は、(立法者意思など主観的基準ではなく)客観的基準により審査。デザイン、構造、措置のストラクチャーから判断。
D S339:中国ー自動車(2009年)

【判旨】

  • 支払うべき税金が輸入に際して(on importation)に生じる場合は関税であり第2条により規律されるが、国内事情 (internal domestic event)のために生じる場合は国内税となり第3条によって規律される。

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