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(3)非関税障壁ー量的制限 GATT 第11条【国際経済法】

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国際経済法(WTO法)シリーズ第2段、非関税障壁のうちの量的制限に関するまとめです。英語で勉強したので日本語訳のおかしいところがあるかもしれません。

 

数量制限の一般的な廃止 General Elimination of Quantitative Restrictions とは

  • 原則としてGATT 第11条1項は、関税、税、課徴金 (duties, taxes or other charges)以外の輸入・輸出にかかる制限や禁止の禁止。制限・禁止の態様が割当 (quotas) であると、輸出入ライセンスであると、他の措置であるとを問わない。第11条2項は例外を定めている。
  • GATT法制上、数量制限は非関税障壁 (Non Tariff Barriers)として一般的に禁止。ただし供給不足物資に関する措置は大きな例外。また、輸出税に関しては禁止されていない(GATT第2条2項)ため、高税率の輸出税を課すことで事実上の輸出制限となり、制度上の抜け穴(loop hole)となる可能性はある。
  • さらに国際収支の擁護(第12条)及び低開発国の産業育成(第18条)のための例外の他、第20条による一般的例外規定が存在。

GATT 第11条1項

締約国は、他の締約国の領域の産品の輸入について、又は他の締約国の領域に仕向けられる産品の輸出若しくは輸出のための販売について、割当によると、輸入又は輸出の許可によると、その他の措置によるとを問わず、関税その他の課徴金以外のいかなる禁止又は制限も新設し、又は維持してはならない。

 GATT 第11条2項

(a) 輸出の禁止又は制限で、食糧その他輸出締約国にとつて不可欠の産品の危機的な不足を防止し、又は緩和するために一時的に課するもの

(b) 輸入及び輸出の禁止又は制限で、国際貿易における産品の分類、格付又は販売に関する基準又は規則の適用のために必要なもの

(c) 農業又は漁業の産品に対して輸入の形式のいかんを問わず課せられる輸入制限で、次のことを目的とする政府の措置の実施のために必要なもの(以下略) 

主要判例

L6309:日本ー半導体(1988年5月4日)

【事実・経緯】

  • 1980年代に日本の半導体の輸出が米国を上回ったことにより、米国はダンピング(不当廉売)調査を実施。交渉の結果、日米半導体協定を締結。
  • 同協定により、米国および第三国に輸出されるコストならびに輸出価格を監視、これにより半導体価格が上昇。EECは、反ダンピング措置は、輸入国産業に損害がある場合にのみ取りうるとして提訴。

【争点】

  • 第三国に対する監視措置は、輸出価格及び輸出数量を制限するものであり、GATT第11条に反する。

【パネル報告】

  • 一定以下の価格での輸出を制限することは、第11条における数量制限に該当する。
  • 第11条は、法律や規制に限定されずより広い措置について適用され、法的拘束力のない事実上(de facto)の量的制限も射程にある。
  • 非拘束的要請が、第11条上の措置となるには、①当該要請が実施されるのに十分なインセンティブがあると考えられる合理的な根拠が存在すること、②当該措置(企業に特有の費用を下回る価格での輸出)が政府の介入に本質的に依存していること。
D S155:アルゼンチンー皮革(2000年)

【事実】

  • アルゼンチンは、同国の皮革産業団体かに皮革等の輸出前段階の輸出通関代理の権限を付与。同団体は皮革を含む製品に関する手続規定を作成。
  • 同手続によると、積込前輸出検査に国内皮革産業関係者が臨席することとされ、実際の検査は国内皮革産業関係者が実施していた。

【争点】

  • EUは、国内皮革産業関係者が輸出の通関手続に臨席することが事実上の輸出制限に該当し、 GATT第10条3項 (a)、11条1項に違反する旨主張。

【パネル報告】

  • 当該措置は、公平的、かつ合理的に貿易に関する法、規則、その他の措置を実施しなければならないことを規定するGATT第10条3項 (a) に違反し、かつ輸出制限を規定した同手続規定がGATT 第11条の適用範囲となりうる(ただし、措置が第11条に違反するかどうかについては、 EUが国内皮革産業団体の税関手続における介在が同条に違反する旨の立証を行っていないとして違反を否定。)。
  • また、それ自体は直接には輸出制限ではないが、間接的に輸出制限の効果を持ちうる措置をGATT第11条に違反する。
D S438:アルゼンチンー輸入措置(2015年) 

【事実】

  • アルゼンチンは、貿易関連要求措置(TRRs)を含む輸入制限措置を実施。
  • TRRs は、輸入者等に、輸入するための条件をつけるものであり、これらの条件には、輸出入均衡要件、輸入量上限設定、送金制限、国内投資要求、ローカルコンテント要求が含まれていた。

【パネル報告】

  • 申立国は、違反の疑いのある措置について立証責任を負うが、本件のような明文の規定のない措置の場合は全てを証明しなくともよい。
  • 被申立国にも協力義務があり、拒否すれば不利な事実認定を受ける可能性がある。
  • 量的制限について、貿易量が実際に減少したことを立証する必要はなく、第11条は、輸入産品の競争機会を保護するものである。
D S366:コロンビアー輸出入港(2009年) 

【事実】

  • コロンビアは、織物及び衣料の輸入の通関港を26中11港に制限。中でもパナマと中国製品についてはボゴタ1港のみ認める措置となっていた。

【争点】

  • パナマは、GATT第11条違反、第1条(最恵国待遇)、コロンビアは、20条(d)による正当化を主張。

【パネル報告】

  • 入港規制措置は、第11条の「その他の措置」に該当する。
  • 第11条により禁止される措置は、量的制限のみではなく、不確実性を創出し投資計画に影響する措置、 輸入品の市場アクセスを制限する措置、輸入コストを禁止的に高額にする措置(=輸入者の競争的地位に影響を及ぼす措置)を含む。
  • 事実上の制限効果(貿易量の低下)は11条違反の認定には必要なく、制度の設計及び構造から判断可能である。

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(2)譲許表 GATT 第2条【国際経済法】

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国際経済法(WTO法)シリーズ第一弾、譲許表についてです。英語で勉強したので日本語訳が少しおかしいところがあるかもしれません。

 

譲許表 Schedule とは

原則として、WTO加盟国は各メンバー国に対して約束した関税率(bound rate)を超える関税を課したり、その他のいかなる義務も課してはならない。他方で、これにはいくつかの例外があり、第3条に整合的な内国民待遇(national treatment, NT)、第6条に整合的なアンチ・ダンピング措置及び相殺関税 (countervailing duty))等の貿易救済措置 (trade remedies) 、関税事務手続等に伴う手数料その他の課徴金 (fees or other charges)による義務については譲許表の範囲を超えても認められる。

なお、同条は関税についての規定であり、輸出入の量的制限については第11条が定める。関税割当 (Tariff Rate Quota, TRQ) については、量的制限を伴うものであるが、関税制度の一種であり、第2条により規律される。WTO法は譲許表の範囲内で関税を課すことについては認めているのであり、必ずしも保護主義を禁じているとは言えない。他方で、量的制限についてはこれを一般的に禁止している(ただしこれについても例外あり。)

GATT 第2条1項

譲許表に定めるよりも不利でない待遇(no less favourable )を譲与する義務

(a) 各締約国は、他の締約国の通商に対し、この協定に附属する該当の譲許表の該当の部に定める待遇より不利でない待遇を許与するものとする。  

GATT第2条2項

ただし、(1)第3条に定める内国税、(2)第6条に整合的な反ダンピング措置または相殺関税、(3)提供された役務に相応する手数料または課徴金を除く

 この条のいかなる規定も、締約国が産品の輸入に際して次のものを随時課することを妨げるものではない。

  1. (a) 同種の国内産品について、又は当該輸入産品の全部若しくは一部がそれから製造され若しく生産されている物品について次条2の規定に合致して課せられる内国税に相当する課徴金
  2. (b) 第六条の規定に合致して課せられるダンピング防止税又は相殺関税
  3. (c) 提供された役務の費用に相応する手数料その他の課徴金

譲許表の修正

GATT第28条1項:当初の交渉国及び主要な供給国は、実質的な利益を有する他の加盟国と協議することにより譲許表を修正することができる。

GATT第28条2項:補償を含む交渉における交渉国は、相互主義的で交渉前よりも不利でない譲許となるように努めなければならない。

主要判例

DS256 アルゼンチンーテキスタイル(1998年4月22日)

【事実】

アルゼンチンは繊維製品等につき以下の関税を実施。①特別最低輸入関税:繊維、衣料品、及び履物に関連する関税品目ごとに平均輸入価格を算定し、それに基づき35パーセントの義務的税率を掛けて最低関税を算出適用。②統計税:従価3パーセントの統計税を統計サービスを財政的に賄うために設定。米国は、GATT第2条 (a) 及び (b) 違反を主張。アルゼンチンは、譲許税率である35パーセントの従価税相当額を超えない限り反しない。

【争点】譲許表は従価税であるがその上限を超えなければ最低関税を設定しても第2条違反とならないのか。

【パネル報告】

  • アルゼンチンが従価税方式で関税を約束しながら特別最低関税を利用するという事実は、同国の譲許表およびGATT2条の要件に合致しない。

【上級委報告】

  • 最低関税制度は(その適用自体ではなく)譲許表に規定された関税を超える範囲で適用される場合に2条1項(a)及び(b)違反を認定する。

DS269 ECー冷凍チキン(2005年9月27日)

【事実】

ECの譲許表は「加塩された」冷凍鶏肉について、他の鶏肉よりも低い関税率を適用。ブラジル産の骨なし冷凍鶏肉は加塩された鶏肉であるものの、「長期保存のため」に加塩されたものではないとして、本来の譲許表の分類とは異なる分類により高い税率の関税を適用。ECは、同分類について「保存」の意味を読み込むことによって、ブラジル産の鶏肉を低関税の枠から排除したい思惑があった。

【争点】EC 譲許表 における「加塩された(salted)」は専ら 「保存 (preservation) 」の意味を持つものと解釈でき、よって物理的に加塩されていても保存に堪えうる塩分含有がなければ 「加塩された」冷凍鶏肉に分類されないのか。

【パネル報告】

  • ウィーン条約法条約(VCLT)第31条ないし第32条によって解釈。「趣旨及び目的」は「文脈」によって文言を確定。
  • 「加塩された」の「通常の意味」は、保存だけに限られない。文脈を検討する必要がある。

【上級委報告】

  • 前提として、条約解釈は終局的に一体化した営為 (holistic exercise) であり、特定の状況の勘案は、「通常の意味」、「文脈」のいずれの名目でも解釈の結果に影響しない。
  • 統一システム (HS) は、条約法条約第31条2項 (a) の「合意」であり、解釈上の「文脈」となり得る。同条約第31条3項 (b)の「事後の慣行」について、ある程度の加盟国による慣行と少数国による慣行は異なるが、反応の不在による慣行の受容は、(当該実行が)既知となったにもかかわらず反応がない場合に起こりうる。 

【結論】ECはGATT第2条に違反(「加塩された」の定義により、よくかつ均一に食塩を浸透させ、塩分含有量が重量で 1.2%以上の骨なし冷凍鶏肉は、この文言に含まれるため、これと異なる分類により高い関税を課すことで不利な待遇を供与している。)。

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【国際法判例】米国によるイランへの再制裁事件(ICJ仮保全措置命令)

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国際法判例シリーズ。この記事では、米国によるイランへの再制裁事件のICJ仮保全措置命令についてまとめています。

【事件名】米国によるイランへの再制裁事件

【当事国】イラン v. 米国 

【決定日】国際司法裁判所(ICJ)仮保全措置命令:2018年10月3日

国際法判例の記事一覧はこちらから>

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事実と経過

  • 2018年5月、米国は、イランの核プログラムに対する制約と引き換えに制裁解除を約束した、イランと国連安保理常任理事国、ドイツ及びEUによる2015年の合意であるJCPOA(Joint Comprehensive Plan of Action)からの離脱を表明。さらに米国は、2018年11月までに同国のイランに対する制裁解除を解く意思を表明。これに対し、イランは米国を国際司法裁判所(ICJ)に提訴。同時に、再制裁を防止する仮保全措置命令を要請した。
  • 米国は、ICJの強制管轄権を1986年に離脱しているため、イランは、管轄権の基礎として、1955年の米国イラン二国間の友好経済関係領事権に関する条約(1955 Iran-U.S. birateral Treaty of Amiy, Economic Relations, and Consular Rights. 以下、友好条約)を主張した。友好条約第21条2項は、同条約の「解釈又は適用」にかかる紛争について、「外交により十分な解決がなされない場合」にICJの管轄権を認めている。
  • イランは、米国の再制裁により経済的な損害を被り、これにより米国は友好条約の以下の各条に違反したと主張した。第4条1項(国民、法人及びその財産に対する公平で平等な取り扱い)、第7条1項(両国間の資金の移動の自由)、第8条1項及び2校ならびに第9条2項(輸出入品に対する最恵国待遇)及び第10条1項(二国間の通商及び航海の自由)
  • これに対し、米国は以下を主張し、イランに反論した。
  1. JCPOAは独自の紛争処理メカニズムを備えているため、ICJによる紛争解決を排除している。
  2. 放射性物質に関する措置及び安全保障上の不可欠の利益を保護するために必要な措置の適用を友好条約違反の正当化自由として認める同条約の第20条1項を援用し、JCPOAからの離脱及び再制裁の実施は、米国の安全保障上の利益及び核不拡散のために必要な措置である。
  3. イランが外交的解決のための努力を怠っているために管轄権を援用する要件を欠いている。

命令要旨

  • 裁判所が仮保全措置を命令するためには以下の3要件を充足する必要がある。すなわち、(1)裁判所に一応の(prime facie)管轄権があり、(2)主張する権利が少なくとももっともらしいものであり(plausible)かつ要請する措置と関連しており、(3)当該措置を否定することが、回復不可能な損害をもたらす真正で急迫な(real and imminent)危険があることを提訴国は立証しなければならない。

一応の管轄権

  • 裁判所はまず、友好条約20条1項は、同条約の解釈及び適用に関する紛争に対するICJの管轄権を認めていることから、米国の主張する同条約第21条2項の安全保障例外が適用されるか検討する必要性は、裁判所の管轄権を受諾するのに十分であると判示し、一応の管轄権を認めた。
  • また、裁判所は、同条約は外交交渉を裁判所の管轄権の前提条件として要求していないと判示した。

権利と措置の関係性

  • 次に、裁判所は、権利と措置の関係について、イランの主張する権利は、少なくとも人道的物資の貿易及び民間航空機の安全に関する権利については安全保障例外の範囲外であることを認めた。さらにこれには、医療及び医療機器、食料、民間航空の維持及び支援のサービスが含まれるとした。
  • これに対し、米国は、すでに民間航空の安全を含む人道的例外の制度を有しており、かつ、人道支援及び民間航空の安全にかかる問題が、完全で迅速な考慮を受けるべく最大の努力をすることを保証すると主張したが、裁判所は、その保証の野心的な性格(aspirational nature)から裁判所の介入が必要であると判示した。

回復不能な損害

  • 最後に、裁判所は、回復不可能な損害について、制裁の実施による生命及び健康に対する損害と解釈した上で、人道的物資及びサービスの通商に対する制約はそのような損害を引き起こす可能性があると判示した。

以上から、裁判所は、イランに対する人道的物資及び民間航空の安全を確保するためのサービスの輸出に対する再制裁によるいかなる損害を除去することを要請する仮保全措置命令を決定した。また、裁判所は、両国が、これ以上紛争を悪化させないことを約束することを命令した。

備考

  • 1955年のイランと米国間の友好条約は、1979年に両国の外交関係が断絶する前に締結された条約であるが、これまでにもテヘラン米国大使館事件(1980年)及びオイル・プラットフォーム事件(2003年)において管轄権の基礎として認められてきた経緯がある。またイランは、イランの財産事件(Certain Iranian Assets Case)においても同条約を管轄権の基礎として主張している。
  • 本決定を受けて、米国は友好条約を即時に破棄する旨を表明した。また、同時に、本決定とは関係なく、人道的支援に関連した取引に対する例外的措置は維持する旨発表した。ただし、友好条約第23条3項は、条約の破棄について、書面による通知の1年後に失効するとしており、本件及び保留中の米国対イランの事件については影響を受けない。  

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【メモ】米国等によるシリアに対するミサイル攻撃の法的評価

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2018年の米国のシリアの化学兵器関連施設に対するミサイル攻撃について国際法の観点からざっくりまとめてみました。

 

事実と経過

  • 2018年4月、米国は、英仏と合同で、シリア・アサド政権の化学兵器施設に局所空爆を実施。ダマスカスのほか、西部ホムス近郊の施設が標的となった。これは、ドゥーマでのシリア政府による化学兵器使用疑惑に対応するものであった(ただし、シリア政府は使用を否定。)。
  • 同14日、トランプ米大統領は声明を発表し、今回の攻撃の目的は、「化学兵器の製造、拡散、使用に対する強力な抑止を確立する」ことであり、「シリア政府がその使用を止めるまで対応を継続する用意がある」と説明。また、市民の犠牲の危険を最小化するものであり、シリアの化学兵器施設への攻撃は、合法(legitimate)であり、均衡性(proportionate)があり、正当化できる(justified)ものであると表明。
  • さらに、「化学兵器は、その残虐性だけでなく、少量ながら広範な惨事を引き起こす可能性があることから、特有の危険性を有して」おり、「その使用のコストは、常にいかなる軍事的・政治的利益よりも上回ること」を理解させるため、今回の攻撃は「必要」であった、と説明した。
  • これに対し、シリア外務省は、「紛れもない国際法国連憲章違反の攻撃を最も強い言葉で非難する」と表明した。また、ロシア、中国及びイランも同様の反論を表明した。他方、独、EU、日本は攻撃の支持を表明した。

考察

  • 米国等のシリアの化学兵器施設に対する攻撃は国際法、特に開戦法規(jus ad bellum)に違反するか。
  • また、仮に国際法上正当化できる場合、どのような立論が可能か。特に米国は法的根拠を示していないため問題となる(legitimateとは、lawful/legalと区別されることを前提。)。

原則:武力行使の禁止

既存の国際法枠組みにおける例外

国連憲章体制の国際法秩序においては、自衛権行使、集団安全保障(国連安保理の承認)及び領域国同意が武力行使の正当化事由として考えられるが、本件はいずれも満たさないと考えられる。

(1)集団的及び個別的自衛権の行使

シリア政府による米国への(国連憲章51条における)武力攻撃は不存在。

(2)国連安保理の承認

国連憲章第7章に基づく安保理の承認(authorization)なし。ロシア及び中国の拒否権行使による安保理の機能不全(paralysis)が背景。

(3)領域国の同意

シリア政府による同意(consent)なし。シリア政府は、そもそも化学兵器の使用を否定。

合法化の試み

議論の前提:米国の攻撃を違法と評価することの法的含意
  • 自衛権の要件にも該当せず、また、安保理が機能不全に陥っている状況の中で、人道的観点から、一定の要件の下、必要な武力行使を法的に容認することはできないか(あるいは、するべきではないか。)。
  • また、米国の武力行使は違法であるとする場合、むしろそれは、国際法の不遵守を看過することとならないか。もしそうであれば、何らかの国際法の枠組みに組み込むことが、国際法秩序の維持や国際法の信頼性、法的安定性及び予見可能性の観点から有益ではないか。

あり得べき法的根拠

(1)自衛権概念の拡張
  • 化学兵器のテロリストへの拡散に対する先制的自衛(anticipatory self-defense)を認める。
  • 問題点:濫用の危険性。そもそも先制的自衛権の法的評価が議論が分かれて(controversial)いる。
(2)緊急避難
  • 違法性は免れないが、緊急避難(necessity)により責任を阻却する。NATOによるコソヴォ空爆(「違法 (illegal)」であるが「正当(legitimate)」)。
  • 問題点:ロジックとしては妥当するが、「合法性(lawfulness)」を認める枠組みとはなっていない。また、悪用(misuse)の可能性 cf. ロシアによるクリミア併合。
(3)復仇ないし履行
  • 化学兵器使用禁止の規範違反に対する復仇(reprisal)ないし履行(enforcement)として捉える。
  • 問題点:武力復仇は禁止されている。また、化学兵器禁止条約(CWC)の枠組みにおいて独自の履行措置が定められている以上、条約外のかつ武力による履行は認められないと解するべき。
(4)人道的介入ないし保護する責任
  • 民間人(citizen)に対する化学兵器の使用を人道的危機と捉え、人道的介入(humanitarian intervention)及び保護する責任(Responsibility to Protect; R2P)により正当化する。
  • 問題点:概念的には国際法上の評価が分かれている。特に人道性について誰が評価するのかという主観的要素を含むことから濫用が問題となる。
  • また、米国自身が人道的介入の概念に反対を表明しているため説得性に欠ける。また、R2Pについては安保理の承認を前提として議論されてきた。
(5)低烈度攻撃(de minimis)

合法化理論に共通の困難性

既存の国際法において合法化できない場合、(1)武力行使に関する新たな規範を創設するか、(2)既存の規範の「再解釈」を行うことが法理論上必要となる。

(1)新たな規範の創設
  • 国家実行と法的信念(opinio juris)が認められれば新たな規範としての国際慣習法(ICL)を認定可能。
  • しかし、武力不行使原則は国連憲章上の規範であり、国連憲章最高法規(憲章第103条)及び厳格な改正手続(第108条及び109条)を鑑みれば、そもそも慣習法によって明文規定を変更可能であるのかが疑問
  • さらに、武力不行使原則が強行規範(jus cogens)であるとすれば、それを変更する規範もまた強行規範でなければならない(条約法条約53条)
(2)「後の慣行」による憲章の「再解釈」
  • 新たな規範自体を創設するのではなく、「後の慣行(subsequent practice)」により憲章規定(特に第2条4項)の変更(ないし「再解釈」)があったものと考える(条約法条約第31条3項(b))
  • 後の慣行として評価される国家実行は、条約上の義務の変更に関して全ての締約国がその内容について明確に同意する必要があるとされる。国家実行がこのレベルに達したとまで言えるかは疑問。

今後の展望

  • 化学兵器の使用は最も普遍的な条約の一つであるCWC違反であり、かつ、民間人への使用は重大な人道的危機を構成すると考えられる。しかし、領域国(シリア政府)はこの事実を否定し、それゆえ対応する意思がない。
  • 他方で、シリア政府による化学兵器使用は、前例に鑑みれば相当程度の事実の真実性があると考えられ、化学兵器禁止機関(OPCW)及び国連の事実調査は、シリア政府の拒否及びロシア異議により困難であった。
  • さらに、今回の空爆には広範な国際社会の支持(政治的承認)が存在。また、国連安保理は拒否権により機能不全にあるという背景がある。さらに、攻撃の限定性(化学兵器施設に対する空爆)及び被害の大きさを検討すれば、「低烈度」性が認められる。
  • これらの要素を総合的に衡量することによって正当化することができないか。国際法一般ではなく、特に開戦法規(jus ad bellum)の分野において、一つの法的根拠(sole basis)に依拠するのではなく、複数の根拠により正当化を主張するケースが多いことを考えれば、そういった関連要素を総合衡量した上で合法性を判断するという枠組み(ないし一段上の慣習?)を想定することができないか。

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(3)訴訟手続の開始 II【民事訴訟法】

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独学で学んでいた民事訴訟法のまとめです。大学時代に民訴を取らなかったというちょっとした後悔から手をつけて見たものの、まさに眠訴と呼ばれる所以で昼休みに読むものじゃなかったです。

 

訴訟物

訴訟物の意義:法文上の概念ではなく、訴訟上の請求と同義であると定義。

 広義:原告による権利主張とそれに基づく一定の形式及び内容の判決要求

 狭義:原告による権利主張

 最狭義:原告によって主張される権利自体 

訴訟物の機能

訴訟物はこれ以上分割することのできない審判対象の最小単位を指し、訴訟法上の様々な問題が訴訟物概念を基準として処理。

 ex.客体的併合該当性(136条)、訴えの変更該当性(143条)、二重起訴該当性(142条)、既判力の客体的範囲(114条1項)

訴訟物理論

(1)実体法説
  • 実体法上の権利を訴訟物とする。(旧訴訟物理論=実務通説)

ex.鉄道事故不法行為に基づく損害賠償請求権と契約上の債務不履行に基づく損害賠償請求権は実体法上権利として異なるものである以上、訴訟物としても異なる。

  • 批判:紛争の蒸し返しや二重の認容判決の可能性

    →選択的併合及び信義則による後訴の却下を認めることで一定程度解決。

(2)訴訟法説
  • 一分肢説:一定の裁判要求が訴訟物。

ex.鉄道事故:「〇〇円支払え」という裁判の要求

  • 二分肢説:裁判要求のみならず事実関係の同一性によっても訴訟物を枠付け(独通説)異なる事実関係から同一の裁判要求を基礎づける複数の請求権が発生する場合に一分肢説と異なる結論が導かれる。

ex.売買代金支払請求権と手形金額請求権:請求権ごとに異なる訴訟物を構成

(3)新訴訟物理論
  • 学説では多数説。
  • 同一の事実関係から複数の請求権が発生する場合であっても、実体法秩序が1回の給付しか認めていないのであれば、この給付を受ける法的地位又は受給権を1個の訴訟物として把握するべきとする。紛争の蒸し返し及び二重の認容判決を回避。
  • 批判:裁判所の釈明義務拡大の可能性、請求権の実体法上の法的性質が不明

訴訟類型と訴訟物理論

(1)給付訴訟の訴訟物
  • 新訴訟物理論によれば、複数の請求権によって基礎付けられ得る一回の給付を求める地位または受給権が訴訟物を構成する。

ex.500万円の支払を受ける法的地位(の存否)

(2)形成訴訟の訴訟物
  • 新訴訟物理論では、実体法が定める個々の形成原因が訴訟物になるのではなく、一定の法律関係変動を求める地位が訴訟物を構成する。
  • 旧訴訟物理論では、形成原因が訴訟物であり、形成原因が異なれば、求める結果が同じでも別個の訴訟物を構成する。

ex.離婚の訴え:離婚を求める地位が訴訟物であり、民770条1項の離婚事由はこのような地位を基礎づける法的観点にすぎないとする。

(3)確認訴訟の訴訟物
  • 実体法上の権利の存否を確認することによって紛争を予防し、また、抜本的に解決すること目的とする結果、いずれの説でも実体法上の権利が1個の訴訟物を構成する。
  • ただし、所有権につき、取得原因のいかんにかかわらず、同一の土地所有権である限り一個の訴訟物とするのが判例・通説。

処分権主義

  • 処分権主義:訴訟の開始(「訴えなければ裁判なし」及び「不告不利の原則」)、審判の対象・範囲、判決によらない訴訟の終了に関する決定を当事者に委ねる考え方。
  • 訴訟物たる権利ないし法的関係は私法の適用を受けるものである結果、私的自治(当事者の意思を尊重し国家の不当な介入を避ける原理)が妥当。

cf.訴訟要件に関する処分権主義:訴訟要件を欠く場合、裁判所は「訴訟判決(訴え却下判決)」をすることになるが、被告による訴え却下の申し出がない場合でもかかる判決をすることが許されるか。→原告による訴え提起には、訴えの適法性についての審判を求めるという意思も含むと解する。

 処分権主義の機能

当事者が申し立てていない事項については判決することができない(246条)原告の意思を尊重するという意義と全部敗訴した場合の危険の限度を予告し、それによって訴状送達を受けた段階で、被告がかかる危険を考慮した上で、訴訟追行の仕方を決めることを可能にする意義。

訴訟の開始の効果

訴えの提起の効果

訴訟係属の発生:特定の訴訟物が、特定の裁判所で審理判決される状態。被告への訴状の送達により生じる。被告が訴え提起について了知する機会を与えられないまま訴訟係属が発生することを防ぐ趣旨。

時効の中断の効果

民法147条1号は「請求」によって取得時効及び消滅時効の期間が中断すると定める。民訴147条は「訴えを提起した時」=裁判所に訴状を提出した時点でその効果が生じるとする(従って訴訟係属の発生を待たない。)。 

  権利行使説:訴状の提出により権利行使の態度が明確になるとする説

  権利確定説:たまたま訴訟の進行が遅れたことにより訴訟中に事項が完成するのは相当ではないことから訴えの提起時に時効中断効を発生させたものだとする説

なお、時効の中断は訴訟物に及ぶ。ex.所有権確認請求訴訟の提起により被告の取得時効は中断。判例では、債権不存在確認請求訴訟において、被告が債権の存在を主張し、棄却判決を求めた場合は、被告が債権の存在を主張した時から消滅時効は中断するとした(大判昭和16年2月24日)。

  • 訴訟物たる権利の判断の前提となる権利について時効中断の効果:

  権利確定説:伝統的には否定。肯定する学説もあり。

  権利行使説:明確な権利行使の態度が認められる限り肯定。

判例では、所有権に基づく土地明渡請求訴訟提起は所有権の取得時効の中断する効果を持ち、根抵当権設定登記抹消請求訴訟における被告による被担保債権の主張は当該債権の消滅時効を中断する効果を持つとした。

  • 時効中断の効果は訴えの却下または訴えの取下げがあった場合は失われる(民149条)

  権利行使説:訴えの取り下げの場合、権利行使が行われなかったとみなされる。却下の場合は、不適法な訴えの提起では権利行使として認められない。

  権利確定説:判決によって権利が確定する余地がなくなったためと解される。

出訴期間遵守の効果

遵守の効果は訴訟提出時に発生し(147条)、訴えの取り下げ又は却下によって遡って失われる。ex.占有の訴え(民201条)、嫡出否認の訴え(民777条)

その他の実体法上の効果

善意占有者の果実取得(民189条1項)は、本権の訴えを提起され敗訴した時は、訴えの提起の時から悪意の占有者とみなされる(民189条2項)法文上は訴え提起時に悪意が擬制されるが、訴状送達時点と解すべき。

訴訟係属の効果

裁判所の審理義務、二重起訴の禁止(142条)、補助参加、独立当事者参加、共同訴訟参加、訴訟参加、訴訟引き受け、訴えの変更、中間確認の訴え、反訴など。

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