Dancing in the Rain

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(37)武力不行使原則の例外 III:非国家主体に対する自衛権と先制的自衛【国際法】

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国際法解説シリーズ、武力不行使原則の例外その3。これまで集団安全保障と国際法上の自衛権として書いていたものを、武力不行使原則の例外としてまとめ直しました。その一環で、今回は自衛権のパートを少し拡張し、非国家主体に対する自衛権と先制的自衛についてまとめています。領域国の同意、人道的介入、自国民の保護といったその他の例外については次回第4弾でまとめています。

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自衛権に関するその他の論点

  • 安保理決議がない場合における武力行使の正当化のため、自衛権は頻繁に援用されてきた。
  • 9.11テロ以降、新たな脅威に対抗するため、米国を中心とする国家実行が積み重ねられることで、自衛権の概念が拡張。
  • 特にに、非国家主体に対する自衛権行使と先制的自衛権の許容性については国際社会において意見が激しく対立してきた。

非国家主体と自衛権

  • 憲章第51条は、自衛権発動について、武力攻撃の主体を規定していない。そのため、テロリストなど特定の国家に属さない非国家主体(Non-Stat Actor, NSA)による武力攻撃に対して、自衛権を行使できるのかどうかが問題となる。
  • 国際司法裁判所(ICJ)は、パレスチナの壁事件の勧告的意見において、憲章第51条は「国家による他国への武力攻撃」を前提としているとし、イスラエルパレスチナ占領地域における自衛権行使を否定した。
  • なお、非国家主体であっても、その行為が国家に帰属(attribute)する場合、当該非国家主体の行為は支援する国家の行為として自衛権行使が可能となる。ここでは当該非国家主体の行為を国家の行為とみなせるかどうかという行為帰属基準が問題となる。これについて、ICJは、コンゴ領域における軍事活動事件(2005年)において、管理不能というだけでは当該反徒の行為は国家に帰属しないとした。cf. 実効的支配(effective control)基準(ニカラグア事件)

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(1)正当化根拠
  • 国家実行(state practice):特に2011年の9.11テロ以降、非国家主体に対する自衛権行使の実行とそれに対する国際社会の支持。アフガニスタンアルカイダやシリアにおけるイスラム国(IS)に対する事例や、最近では、トルコがクルド勢力に対して自衛権行使を主張。
  • 伝統的自衛権の概念:憲章以前の伝統的自衛権慣習法上の自衛権)は、その対象が国家であるか、非国家であるかを問わず行使可能(ex. カロライン号事件)第51条は、この伝統的自衛権に影響を与えるものではない(なお、ニカラグア事件では、慣習法上の自衛権の存在については確認されたが、憲章上の自衛権との関係についてが必ずしも明らかでない。)。
  • 国際法進化(evolution):慣習法は、国家実行と法的信念に依存するため、国家実行の積み重ねとそれに対応する法的信念に応じて進化するもの。特にテロリスト等の非国家主体の増大する脅威に対抗するためには法を進化させる必要性。
  • 事後の慣行(subsequent practice):国家実行は、ウィーン条約法条約第31条第3項(b)が規定する条約解釈についての「事後の慣行」を構成する。すなわち、近年の国家実行に即して第51条は解釈されるべき。

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(2)問題点
  • 領域主権(territorial sovereignty)との衝突:特定の国家に帰属しない非国家主体に対して自衛権を発動することは、非国家主体の所在国の領域に対する武力行使となる。ex. シリアに所在するISに対する自衛権行使は、必然的にシリア領域に対する攻撃となる。
  • 文言解釈的問題:憲章第2条4項は、「すべての加盟国」に対し、「その国際関係において」武力を行使することを禁止している。すなわち、国家をその主体及び客体として想定しているため、非国家主体は、そもそも武力不行使原則の枠外あり、これに対して自衛権は発動できない。
  • 憲章の最高法規性:憲章第103条は、国連憲章上の義務は他の全ての条約上の義務に優先すると規定。したがって、新たな慣習法が成立したとしても、憲章上の明文の規定をも変更すると解釈することは困難。
  • 武力不行使原則の強行規範(jus cogens)性:ニカラグア事件において、ICJは、武力不行使原則が強行規範であることを認定。さらに、条約法条約第53条によれば、強行規範は他の強行規範によってのみ変更が可能。
(3)近年の国家実行
  • 米国は、イラクにおけるISへの攻撃について、領域国であるイラクの「同意 consent 」があったと説明(なお、米国によると、この同意は公に宣言することを要するものではない。)。後述するように、領域国の同意は武力不行使原則の不文の例外として広く認識。したがって、同意がある場合は、非国家主体に対する武力行使は第2条4項違反とならない。
  • 他方、例えば、シリアにおけるISのように、常任理事国(シリアのケースではロシア)の拒否権のために武力行使を承認する安保理決議を議決できず、かつ、明示又は黙示を問わず領域国(シリアのアサド政権)の同意も得られない場合、米国及びその同盟軍はいかなる法的根拠により、ISに対して武力行使を正当化できるかが問題となる。
  • この問題について、米国は、「意思がないか又は不可能か unwilling or unable 」の基準を主張。(ex. 2014年9月23日付け国連事務総長宛米国発書簡)これによると、領域国が自国内に所在する武装勢力(非国家主体)が外国を攻撃するのを防ぐ能力がない場合、または、防ぐ意思がない場合に、被攻撃国は、当該領域国の同意を得ることなく自衛権の発動として武力行使が可能となるとする。英国なども緩やかに支持しているが同基準を要件として明示はしていない。
  • unwilling or unable の基準の法的根拠は必ずしも明らかではない。またその濫用の危険性から意見の対立があり、慣習国際法となるに至っていない。
  • 領域国の保護責任に依拠(あるいは類推)すれば、一般的に領域国の相当の義務違反が必要となるが、特に効果的な予防措置をとることのできない国(unable state)に対しては、過失がなくとも厳格責任(strict liablity)が適用されることになり、国家責任法との整合性が問題となる。

先制的自衛 

  • 先制的自衛権(anticipatory self-defense):武力攻撃が実際に発生していないが、武力攻撃が差し迫って(imminent)いる場合に、自衛権の発動が認められるかという問題。
  • 憲章制定時には想定されていなかった核やミサイル攻撃が現実味を帯びることで自衛権問題の核心的論点となる。近年では、サイバー攻撃やテロ攻撃などの新たな脅威に対して実効的に対処する必要性からこれを容認する議論があるが、非国家主体に対する自衛権行使と同じく、濫用の危険性が高いことから国際的な合意を得るに至っていない。
  • なお、武力攻撃発生の時間的近接性から、しばしば先制的自衛権予防的自衛権(preventive self-defense) とを区別し、急迫性をも要件としない後者については米国も支持していない。また先制的自衛権についても、anticipatory self-defense とpreemptive self-defnse に区別される場合があり、米国は後者を採用している。
(1)正当化根拠と問題点
  • 憲章第51条は、「武力攻撃が発生した場合 if an armed attack occurs」に自衛の権利を認める。これに対して、19世紀以来の伝統的な慣習国際法は、脅威が急迫している場合においても自衛権の行使が許容されるとする(この例として、カロライン号事件がしばしば援用される。)。
  • このため、非国家主体に対する自衛権と同じく、伝統的自衛権と憲章上の自衛権の関係について上記と同様の議論が展開される。ただし、先制的自衛権については、後述するとおり、伝統的自衛権の文脈ではなく、むしろ、憲章第51条を柔軟に解釈するという主張が有力。
(2)国家実行と判例
  • 2002年のブッシュ政権時の米政府の国家安全保障戦略(National Security Strayegy, or NSS)はテロリストに対する先制的自衛権を肯定するものであったことから、国際世論は紛糾。なお、2016年のオバマ政権でもこの可能性を排除せず。

2002年9月米国国家安全保障戦略(NSS)
テロリストが米国民と米国に対して危害を与えることを防止するため、必要な場合には、単独で行動し、先制的に行動(act preemptively)することにより、自衛権を行使することを躊躇することはない。
国際法は数世紀にわたり、国家が攻撃の急迫した危険を示す実力から自国を守るための行動を正当に取ることができるようになる前も攻撃を甘受する必要はないことを認めている。
米国は、発生する脅威の機先を制するためにあらゆる場合において実力を行使することとなるのではなく、また、諸国は、先制を侵略のための口実として用いるべきではない。

  • 今日では、慣習法上の先制的自衛権を正面から主張するのではなく、憲章第51条上の「武力攻撃」の中に「武力攻撃の急迫した脅威 imminent threat of armed attack」をも読み込む余地があると解釈。ex. 2016年4月1日の米国務省法律顧問の発言
  • 急迫性を要件に先制自衛を認める米国の見解は、英国や豪州も支持。他方で、自衛の名における「先制襲撃」の合法化につながる危険性。
  • ICJは、ニカラグア事件において、武力攻撃の急迫した脅威への対応の合法性については当事国から提起されなかったとして、裁判所としての見解を示さなかった。コンゴ領域における軍事活動事件においても同様の立場であった。いずれにせよ、ICJがこれまで発生していない武力攻撃に対する自衛権を肯定したことはない

REPORT ON THE LEGAL AND POLICY FRAMEWORKS GUIDING THE UNITED STATES’ USE OF MILITARY FORCE AND RELATED NATIONAL SECURITY OPERATIONS(2016年12月)

開戦法規(jus ad bellum)において、国家は、すでに発生している武力攻撃のみならず、発生する以前の差し迫った攻撃(imminent attacks)に対しても固有の自衛の権利を発動して武力を行使することができる。

他国又は他国領域に対して初めて武力を行使するために、開戦法規に照らして武力攻撃が差し迫ったものであるかどうかを検討するに際して、米国は、様々な要因を分析する。

その要因には、脅威の即時性と性質、武力攻撃が発生する確率、予想される攻撃が継続する軍事活動に同調する一部であるかどうか、攻撃のあり得る規模(scale)とそれを減殺する行動がない場合に生じる可能性のある損傷、損失又は損害、及び、付随する損傷、損失又は損害がより深刻でない実効的な自衛の他の手段の行使可能性、が含まれる。

さらに、武力攻撃が発生する場所又は、武力攻撃の正確な性質についての特定の証拠がない場合であっても、武力攻撃が差し迫っていることを結論づける合理的かつ客観的な基礎(basis)がある場合は、自衛権を行使する上での切迫性を結論づけることを妨げられない。

また、現代の国際社会において広く認識されているように、何が切迫した攻撃を構成するかという伝統的な概念は、テロリスト組織の今日における能力、手法(techniques)、技術的革新に照らして理解されなければならない。

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Are we dating? 今すぐ使いたくなる実践アメリカ英語 【恋愛編】

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せっかくアメリカに住んでいるので、何か実際的な(practical)英語について書けないかと思っていました。陳腐(cliché)ですが、教科書に載っていないような英語。といっても、あんまりスラング(slang)ばかりに偏りすぎるのもよくないかなと思いました。

そこでとりあえず、今回は第一弾として恋愛関係の言葉について書いてみました。日本語から英語にしにくいもの、逆に英語にしかないような表現といったものを紹介したいと思います。

恋愛関係にある人も、そうでない人も、恋愛の話って古今東西を問わず(というか否応なく)話題になるトピックなので、覚えていて損はないはず。

 

日本語→英語 

日本語ではよく使うけど、これって英語でなんていうのというのを集めてみました。 

告白する

「告白する」という言葉は、日本語では割とよく使う言い方ですが、英語に直訳すれば、confess one's love になります。しかし、この言い方は間違いではないですがほぼ使いません。というのも、これは宗教上の意味合いが強く、特にキリスト教における信仰告白みたいに聞こえてしまいます。さらに、love 自体も神の愛(ギリシャ語のagape)をイメージさせます。

(1)好きだと言う

そこで、「告白する」に相当する特別の単語はないので、「好きだと言う」あるいは「恋人になりたいと言う」という意訳をします。例えば、「昨日、その子に告白された」と言いたい場合、Yesterday she said she liked/loved me とか、次の「恋人」を表す英語を使って、Yesterday she said she would like me to be her boyfriend と言ったりできます。

このように特定の言葉を英語でなんと言ったらいいかわからない場合、「告白する」→「好きだと言う」みたいに、記述的に(descrictive)表現するのは英語を上達させる上で重要なテクニックの一つです。 

(2)プロポーズする

「告白する」と似たような言葉に「プロポーズする」というのがありますね。もちろん、これは英語の proposeからきていて、ちょっと堅い表現ですが求婚する(まさに日本語も堅いですね)という意味でも使われます。ということで、これも記述的に「結婚したいと言う」と意訳します。例えば、「プロポーズの言葉は何でしたか」と尋ねる場合だと、結婚する(get married)を使って How did you tell him/her you want to get married? と言えますね。

恋人

恋人という言葉を直訳すれば、lover ですが、これもほぼ使われません。多くの場合、日本語と同じく彼氏あるいは彼女(boyfriend/girlfriend)が使われます(チャットとかだと、bf/gf と短縮して書いたりもします。)。

ジェンダーレスな表現を使う

ただし、LGBTなど多様な性のあり方が認められつつある現代においては、性差に基づかない呼び方が好ましいとされる場合もあります。例えば、日本語だと「恋人」という言葉は、男女問わず使えてしまうので便利ですね。「恋人いるの?」という質問は、個人の性的指向(sexual orientation)に配慮した尋ね方だと言えます。

この観点から、最近では、パートナー(partner)という言葉もよく耳にします。他にも、ちょっと堅苦しい言い方ではありますが、significant other(大切な人というニュアンスでしょうか) という言い方があります。例えば、最近僕が目にしたものだと、パーティーの招待状(invitation)に significant other も連れてきていいよ、と書かれていました。

もう少しフォーマルな文脈で、かつ、既婚のカップル(married couple)の場合spouse (配偶者)というのも使えます。これも夫/妻(husband/wife)という呼称とは違ってジェンダーが入らない言い方ですね。

付き合う

誰かとお付き合いするというのを英語で表現するのも難しい。そもそも日本語の「付き合う」という言葉も多義的です。必ずしも恋愛の文脈で使われるわけではありません。例えば、彼は付き合いが悪いとか、一般的な人間関係にも使えますね。 

(1)付き合いたい場合

こういう場合、例文で考えてみるのがいいかもしれません。例えば、「付き合ってもらえませんか」と言いたい場合、I'd like to be your boyfriend/girlfriend(君の恋人になりたい)とか I'd like you to be my boyfriend/girlfriend(君に恋人になってほしい)と言えます。ストレートでいいですね。 

(2)付き合っているのか聞きたい場合

他に、「誰か付き合ってる人いるの」(個人的にはあまり聞かれたくない質問ですが)と聞きたい場合、単純に Do you have a boyfriend/ girlfreind? と言えばいいですが、ちょっとこれが直接的すぎる場合、Are you seeing anyone? という言い方もできます。この場合の seeは見るという意味ではなくてまさに「付き合う」というニュアンスに近いと思います。

(3)恋愛関係 Relationship とは

また、Are you currently in a relationship?今付き合ってる人いるの?)というのも使えます。この relationship というのは「関係」という意味ですが、文脈によってしばしば「恋愛関係」という意味で使われます。

ただし、多義的な単語なので、より明確に恋愛関係であることを示したい場合は、romantic relationship と言ったりします。直訳すれば、「ロマンチックな関係」ですが、なんとなく意味が分かりますね。他にも、(オリビア・ニュートン・ジョンの曲じゃないけれど)physical relationship と言えばまさに肉体関係という意味になります。こちらは全然ロマンチックじゃない。

英語→日本語 

ここからは逆に英語でよく耳にするけれど、日本語だとどう言ったらいいか戸惑ってしまうようなものについて書いていきます。

crush 

ややこしいですが crash/clashという単語もあります。これは「衝突する」という意味。そうじゃなくて、これは crushです。辞書を引くと、まず「押しつぶす」という意味が出てきます。しかし、ここでは名詞として恋愛関係の文脈で使われる crush の意味について考えます。

例えば、I think I have a crush on him というフレーズはどうなるでしょうか。ラインとかでサジェスト機能(単語を入力すると関連するスタンプを表示してくれる機能)を使って crush と打ってみると大体分かるかと思います。ハートの目をしたスタンプがたくさん出てきますね。つまり、この crush は「(多くの場合一時的な)好きという感情」を意味します。例文だと、「彼を好きになってしまったみたい」と意訳できます。

初恋はどう表現するか

応用編で、「初恋はいつでしたか」と聞く場合、When was your first crush? ということができます。これを first love としても通じるように、crash は love を使って代替できることも多いと思います。先ほどの、彼を好きになってしまったみたいというのも、I think I love him と言っても(文脈によっては)間違いではありません。

ただ、crush は、厳密には強く短い心酔(infatuation)を指すので、人によっては、それは love じゃないとか、 love 以前のものという認識になるかと思います。でも初恋って(多くの場合)淡く切なく終わってしまうものだから、やっぱり crush の方がしっくりくる気がします。

dating 

最後に かなり困惑(confusing)させられる dating という単語について。日本語だと、「デートする」ですね。根本的には同じなのです。しかし、この単語のアメリカ的意味を理解するにはまず、アメリカ人の恋愛観について知っていないといけません。

(1)日米の恋愛観の違い

日本だと、告白する→恋愛関係になる(→結婚する)みたいな流れが一般的ですね。つまり、まず気になる人がいて、デートを重ねて、どこかのタイミングで告白して、その時点で、そのデートしていた人が「恋人」に切り替わる、というイメージになるかと思います(もちろん、あくまで一般論ですが。)。

まず、日米で共通しているのは、恋愛関係(relationship)の有無を問わず デート(dating)をすることです。つまり、恋愛関係になる前でも後でもデートはしますね。しかし、アメリカの場合、感覚として少し違っているところはあります。それは、複数人と同時進行でデートするのはオッケーなのです。ただし、その関係が排他的(exclusive)になるまでは。日本だと何だか不真面目な印象ですが、さすが合理的な(rational)アメリカ人といった感じ。

(2)アメリカ人にとっての dating

アメリカの恋愛観は、ざっくりまとめると以下の4つのステップがあるということになります(しつこいようですがケースバイケースです。)。

デートする関係(dating)→排他的にデートする関係(dating exclusively)→恋愛関係(relationship)→結婚 (marriage

具体的に考えていきましょう。

まず、気になる人が何人かいるとします。とりあえず彼ら(彼女ら)とデートします。そのうち気が合う(get along)人が誰か一人に絞られてきます。そこで、エクスクルーシブな関係(exclusive relationship)に移行します。この時点から、それまでデートしていた他の人とはデートできません。本命に絞ったわけです。しかし、ここがまた奇妙ですが、これはまだ正式な恋愛関係ではないのです。いわばお試し期間(trial)みたいなもの。このエクスクルーシブな関係を経て、この人に決めた!となった時に、恋愛関係に移るというわけです。

もちろん人によっては、日本と同じようにこの第二段階をすっ飛ばしていきなり恋愛関係に入るというケースもあります。場合による(it depends)というやつです。ちなみにどれくらいの期間が経てば、dating から exclusiveへ、exclusive から relationship へ移行するかというのもしばしば議論になりますが、これももちろんケースバイケース。

 (3)dating or hanging out ?

hanging out という英語を知っていますか?食事したり、お茶したり、ショッピング・モールに行ったり、映画を見たり、どこかに出かけたり、こういうのをまるっとまとめて hanging out (あるいは単に動詞としてhang)といいます。例えば、「週末どっか行かない?」というのは、Do you want to hang this weekend? となります。どちらかといえばスラングですが非常に頻繁に使われると思います。

さて、ここでとある問題が浮上します。それは、特に男女間で(あるいは同性間で)、例えば二人きりで何度も遊んだりするような仲である場合に、果たしてその二人は hanging out しているのか dating しているのかという問題です。男女の友情は成立するかというような普遍的な問題ですよね。日本でもこういう微妙な関係ってよくあります。

白黒はっきりさせたい場合、dating なのかストレートに聞いてしまうのもいいかもしれません。例えば、Are we dating?(僕たちってデートしてるのかな?)って聞いてみるとか。僕は実際にこれを言って若干口論じみたことになったので注意が必要ですが(経験者は語る。)。

長くなるのでこれ以上このトピックについて深入りしませんが、もっと知りたい場合、dating or hanging out とネットで検索してみてください。みんな同じようなことで悩んでるんだなと感じさせられます。

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城塞とコロニアル建築、波を運ぶ風【旅行記:プエルトリコ、サン・フアン】

 

久々の週末一人旅、ということでプエルトリコのサンフアン(San Juan)に行ってきたので、備忘録もかねてご紹介。

 

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プエルトリコと聞いて思い浮かべるのは、自分の中ではなんといってもミュージカルの金字塔、ウエスト・サイド物語に出てくる名曲 America です。プエルトリコ系移民たちの、故郷を懐かしく思う気持ちと自由の国アメリカへの理想が対照的に歌い上げられているのが印象的なこの曲。少し歌い出しの歌詞を引用してみます。

Puerto Rico, You lovely island, Island of tropical breezes.
Always the pineapples growing, Always the coffee blossom blowing.
Puerto Rico, You ugly island, Island of tropic diseases.
Always the hurricanes blowing, Always the population growing, And the money owing, And the babies crying, And the bullets flying.

プエルトリコ、南国の風が吹く美しい島、いつだってパイナップルが成っていて、コーヒーの花が咲いている

プエルトリコ、病んだ熱帯の醜い島、いつだってハリケーンがやって来るし、人口は増え続け、借金まみれで、赤ん坊は泣き止むことなく、弾丸が飛び交う

といっても、この映画(劇団四季のミュージカルの舞台も見たような気がするけれど)を見たのはそれこそ中学生くらいで、なんとなくプエルトリコに対する暗いイメージをずっと抱いていたのを覚えています。まあ映画自体暗いですしね。

今や移民(immigrants)というと、ホンジュラスとかグアテマラとか中米からの不法移民ないしその取り扱いに関する人権問題の文脈で語られていて、アメリカにとっては選挙結果を左右するほどの重要なイシューとなっています。

 

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なんとなく週末どこかに行きたいなと思っていて、調べていたら安かったのがプエルトリコ・サンフアン行きのフライトだったんですね。本当はシアトルに行きたかったのだけれど、よく考えたらわざわざ極寒の2月にシアトルにいうというのはあまり賢明な案とは言えないかもしれない。でも3月以降はまた高くなるだろうしなというジレンマもありますが。

改めて地図を見てみると、随分とアメリカ大陸から離れているのが分かります。もはや南米の方が近いのではないかという距離感。キューバ よりも遠い。それに何故だかそもそもプエルトリコが島であるということを前日に気がついて、なんとなくハバナに降り立った初日の苦い記憶がふっと蘇るという(ハバナの話はまた別の機会に書きたいと思います。)。

 

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さて、プエルトリコは少なくとも法律的にはアメリカ領(US Territory)なので、渡航に際して米国のIDがあればパスポートは必要ありません。国内旅行ということになります(もちろん日本から行く場合はESTAが必要です。)。

この法的地位について、一時期は大統領の暗殺計画もあったぐらい独立運動が盛んだったみたいですが、現在では独立国家になろうという機運は下火になっています。それくらい経済的恩恵もあるし、何より米国国民というステータスは大きい。リオ・グランデ川を越えてメキシコからテキサスに入るという無茶な真似をしなくてもいいですし(これを実際にやってアメリカに入国したホンジュラス人の猛者が友人にいるわけですが。)。

それでも、例えば、2017年に結果的に3000人以上の死者を出したハリケーン・マリアに対する米国政府の対応は遅々としたもので、これに対しては国内的にも厳しく批判に晒されました。だからといって、ハワイみたいにプエルトリコを州に格上げしようとしても、民主党支持州(Blue State)となることが確実視されているため、共和党政権はそんなことはやりたくないという政治的現実があります。ちなみに現状だとプエルトリコ人は米大統領選挙には投票できません

 

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話を元に戻すと、僕の個人的なプエルトリコに対する期待は(もちろん良い意味で)見事に裏切られました。

流石に冬なので日は短いけれど、なんといっても暖かい。午後5時くらいだけれど、気温は27度くらいある。空港から市内までバスに乗ると、コインしか使えないと言われましたが、それでもお札しかないよというと無料で乗っけてくれました。ノリのいいラテン・ミュージックをガンガンに流しながら、猛スピードでハイウェイを突っ走るバス。開け放たれた窓から、生暖かい風が吹き込んでくる。スペイン語で世間話をする女性たち。日はだんだんと傾き、燃えるようなオレンジ色へと変わる。外では南国の鳥たちがさんざめくかのように鳴いている。

なんだかほっこりする一幕。ああ、(アメリカなんだけど)また中米に来ちまったなという感覚。こういう第一印象って大事ですよね。

 

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宿を取ったサンフアンの街から、スペイン統治時代の旧市街(Old San Juan)までは約6キロくらいあります。ちなみに、オールド・サンフアンは世界遺産にも登録されていることを帰ってきてから知りました(どれだけ興味がなかったのかという。)。

旧市街までの公共交通機関は途中までバスがあるけれど、それ以降はなし。まあ時間もあることだし、歩いて行くことにします。ギリシャ・サントリーニ島のフィラ(Fira)からイア(Oia)まで歩いたのが10キロだったからまあそれよりはマシじゃないかという思いもあり。ちなみに、サンフアンではアメリカ本土と同じくUnerが使えるので全然歩かなくても観光できます(Lyftは今のところありません。)。

 

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アメリカ本土ですら考えられないことですが、歩道が途切れることなくきちんと整備されています。それだからか見かけるランナーの数も多いです。炎天下の真昼間に走っている気持ちはよくわかりませんが。それでも碧みがかった煌くカリブ海を横目に走るというのは格別なんだろうなと思います。波を運んでくる風も気持ちがいい。

いずれにせよ、外を出歩いている人が多いというのは治安がいいというサインになります。やっぱり中米とは違う。ここはアメリカなのだという安心感もありますが、実際のところ、監視カメラも至る所に設置されているし、パトロール中の警察も多いです。それでもスリには気をつけろというのはよく聞く話です。

 

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コンダッド(Condado)ビーチを通り過ぎます。この辺りはラグジュリーなホテルやレストラン、バーが立ち並んでいる外国人ないしアメリカ本土人の多い賑やかなエリア。何故水着を持ってこなかったんだろうと後悔。思えばいつもそうで、いざ海を目の前にすると飛び込みたくなる衝動にかられます。それにだんだんと日差しも強くなってきました。じわりとシャツを滲ませる汗。 

海沿いを歩いていると、スペイン時代の城塞の跡が残っているのが見えます。強者どもが夢が跡。こういうのはまあ、キューバ に残っているものと同じようなものですが、こちらは米国国立公園局(National Park Service)の管理下にあります。

それから、見慣れない南国の植物はやっぱり見ていて飽きませんね。いくつかこっそり持って帰れないかと思ったりする。とかなんとか考えていると、ペリカンみたいな口をした大きな鳥が悠々と空を通り過ぎていったり、二匹のイグアナが猛スピードで走り抜けていったりしました。こうしてまたシャッターチャンスを逃す。

 

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途中の休憩も含めて一時間半ほどで旧市街までたどり着きました。メキシコのグアナファトとかグアテマラのアンティグアみたいな(既視感溢れる)カラフルなコロニアル建築。観光客向けのレストランとかカフェやバー、スーベニア・ショップなどまた賑やかになり始めます。

街の雰囲気で言うと、イエローやらオレンジやらのスペイン流の色遣いはやはりパッと明るくさせます。そしてなりより時折姿を覗かせる真っ青なカリブ海とのコントラストが美しい。トルコのイスタンブルの旧市街とマルマラ海をなんだか彷彿とさせますが、それでもこの色の対比は他にはない気がする。

 

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特に当てもなく石畳の路地を行ったり来たりしていると、やがてだだっ広い平原に突き当たります。風が強くて、これまでにない開放感。サンファン島の先端にあるスペイン時代の城塞 El Morroモッロ砦と日本語で呼ばれている模様)の遺構です。

この原っぱがまた気持ちいい。凧揚げしている子供がいたり、談笑しているカップルいたり。ビールでも一本空けたくなりますが、ここプエルトリコでも、他のアメリカ諸州と同じく屋外での飲酒は違法です。

プエルトリコのナンバープレートのイラストにも採用されているGarita(張り出し櫓)も特徴的。カリブ最大の城塞(fortification)と言われるだけのことはあって、これらの城塞は、16世紀から19世紀にかけてプエルトリコ防衛の要となってきました。アメリカがやって来るまでは、ということですが。

 

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サンファンは、旧市街だけでなくオールナイトで賑やかな La Placitaとかも楽しいと思います。他にも、サンファンから車で一時間ほどで行ける熱帯雨林とか滝とかビーチとかにも時間があったら行っても良かったかなと思いました。小さな島ではありますが、レンタカーがあると便利です。運転できない場合、公共交通機関がは基本的にはないので現地のツアーに参加することになります。

それから、実際的な Tips になりますが、お金について、基本的にはアメリカ本土と同じくどこでもクレジットカードが使えます。ただし、前述のとおりバスに乗るにはキャッシュ(しかも25セント硬貨)のみです。チップもアメリカと同じく必要。

ネット環境については、だいたいのカフェやレストランには無料Wifiがあります(なお、サンファンの空港には有料Wifiしかありません。)。アメリカの携帯を持っている場合はもちろんそのまま使えます(少なくともAT&Tでは確認。)。言葉については、少なくとも接客業に従事しているような人についてはちゃんと英語が通じます。もちろんスペイン語が話せるに越したことはありませんが。

 

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最後に個人的にお気に入りの写真を二枚。日がちょうど沈んだ後の波打ち際と椰子の木。もう少しで夜の闇に包まれてしまうその直前の儚く消え入っていく前の姿。風が止む。喪われた楽園。

どっか別の南国の島でも撮れるんじゃないかと言われそうではありますが、それでもなんだか不思議と好きな雰囲気です。

 

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(1)国際貿易機関(WTO)の紛争解決システム 【国際経済法】

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後出しですが、国際貿易機関(WTO)の紛争解決手続についてまとめました。小委員会(パネル)や上級委員会のプロセスなど、国際司法裁判所(ICJ)とは全く異なるシステムなので、国際経済法を学び始める前に理解しておく必要があります。また、近年、日本と韓国の間の紛争で世間的にも話題になっていましたね。

 

国際貿易機関(WTO)における紛争解決 

  • 国家間において紛争が生じた場合、国際法上、相手国の同意がなければ司法的解決はできない。ex. 国際司法裁判所(ICJ)の管轄権
  • 国際貿易機関(World Trade Organization, or WTO)は、自動的かつ義務的(automatic and compulsory)な紛争処理システムを採用。すなわち、他の締約国に対し、WTOがカバーする協定上の紛争について、一方的に紛争解決手続を開始することが可能。この紛争は主として貿易上の問題ではあるが、付随的に健康や環境問題、公序や国家安全保障といったセンシティブな問題も含みうる。
  • WTOの紛争解決システムは、詳細な手続事項、上訴プロセス、履行確保制度、判例法の蓄積などの特質から、締約国によって頻繁に利用されてきた。ex.1995年から594件以上のケース
  • 紛争解決機関(Dispute Settlement Body, or DSB)は、全ての加盟国により構成。実質的には一般理事会(General Coucil)と同じ構成ではあるが、独自の議長を有する。DSBは、小委員会(パネル)の設置、パネル及び上級委員会の報告書の採択、勧告や決定の履行監視、譲許の停止の許可など、紛争解決手続上の意思決定機関として機能。

関連規定:GATT及び紛争解決了解

  • GATT第22条及び 第23条は、WTOの紛争処理システムの基本的な原則を規定。具体的な手続的ルールについては、紛争解決了解(Understanding on Rules and Procedures Governing the Settelement of Disputes, or DSU)が定める。
  • GATT第23条によれば、締約国は(a)他の締約国が協定上の義務を怠るか、(b)何らかの措置を適用するか、又は、(c)その他いかなる状況の結果として、この協定に基づいて与えられた自国の利益が無効化若しくは侵害(nulified or impaired)されたか、又は、この協定の目的の達成が妨げられていると認める場合に紛争処理手続を開始することができる。 
  • 典型的には、(a)の義務違反により、協定上の利益が無効化又は侵害されたと主張するケースがほとんど。なお、(c)その他の状況で認められたケースはない。
  • また、義務違反だけでなく利益の無効化又は侵害も要件となるが、申立国が協定の義務違反の立証に成功した場合、無効化又は侵害について存在するものと推定される(DSU第3条8項)

紛争解決了解(DSU)上の紛争解決手続

DSUによれば、紛争解決手続は、協議、小委員会(パネル)、上級委員会、履行監視の4段階からなる。

協議(Consultation )

  • 協議(consultation)は紛争解決の第一段階として規定される。協議は、事実や法的主張の確認や、これ以上の手続を進めることなく紛争を解決することを目的とする。またこの段階では、WTO事務局長の仲介や周旋(good offices)も利用される。
  • DSUは、協議について、その要求から30日以内に開始しかつ誠実に(good faith)行われなければならないことを規定するが、協議の形式や形態等については定めがない。

小委員会(Panel)

  • 協議の要求から60日以内に紛争が解決しない場合、申立国(complaining state)は、DSBに対し小委員会(パネル)を設置するよう求めることができる。DSBは、反対のコンセンサスがない限り、当該要求から次の会議までの間にパネルを設立しなければならない。
委員の選定
  • パネルが設置された後、DSBはパネルを構成する3人の委員(panelist)を選定する。委員は、(1)政府職員、(2)WTO事務局員、(3)貿易についての学識経験者又は弁護士に大きく分類される。
  • 当事国の間で合意がない限り、当事国及び関連する第三国の国民は委員となることができない。また、発展途上国が当事国の場合、要求があれば、委員のうち一人は途上国出身でなければならない。
  • 事務局Secretariat)は、委員の候補者の名前を提示する。当事国は、やむにやまれぬ理由(compeling reason) がある場合に限って、提示された候補者を拒否できる。
  • パネルの設置から20日以内に委員の選定に合意できない場合は、当事国の要求に基づき事務局長が委員を選定する(要求から10日以内。)。
  • 委員は、独立し中立で、当事国と利害関係を有するものであってはならず、これに反する場合、当事国は委員を変更するよう要求する権利を有する。
審理手続
  • 申立国は、問題となる特定の措置及び主張の法的根拠について付託事項(terms of references)として決定し、書面により提出。その後、通常2回の実質的な審理が行われる。いずれの審理の前にも主張を書面にて提出する、
  • パネルは、関連するWTO法に照らして、当該措置を検討し、事実及びWTO法適合性についての客観的評価(objective assesment)を行った上で、DSBにおいて採択すべき報告書を作成する。
  • 上級委員会の判例によれば、証明責任(burden of proof)は、特定の主張や防御について主張するものが負うが、主張が真であると推定できるのに十分な立証がある場合は、証明責任は他方の当事国に転嫁する。
  • 申立国は、広範な法的問題を提起することが多いが、パネルは訴訟経済を行使。すなわち、全ての問題について取り扱う必要はなく、この立場は慣例として確立。
報告書の作成(Final Report)
  • パネルは、その設置から遅くとも9ヶ月以内に報告書を作成(ただし実際には守これを超過することが多い。)。報告書は、義務違反がある場合はそれを認定し、問題となる措置について是正するように勧告。パネルは、具体的に履行するための提案を行うことも権限として可能であるが、実際に行使することは稀。違反国にいかにして違反状態を是正するかの裁量があるとの立場。
  • 報告書は、逆コンセンサス(negative consensus)によりDSBにおいて採択。逆コンセンサスとは、全ての加盟国が報告書に採択しないことにつき同意しない限り、報告書は自動的に採択されるという意思決定方式。非申立国は、採択をブロックすることができないが上級委員会に上訴することができる。

上級委員会(Appellate Body)

上級委員会の構成
  • 上級委員会7名の委員により構成。DSBにより任命。任期は4年。再任は一回限り。
  • 上級委員会は、事務局長と協議の上、独自に訴訟手続を設定可能。
  • 上級審は3名の委員(Division)によって審理されるが、報告書作成にあたっては、他の4名の委員とも意見交換を行う。3名の委員選定にあたっては、ランダム性や平等性に基づく非公開の手続による。
  • なお、2019年12月、2名の委員が任期満了により退任したが、トランプ政権の米国が新委員の任命をボイコットした。これにより、委員の数は、審理を行うための最低人数である3人を割り込むことになり、上級委員会は実質的に活動停止状態にある。
報告書の作成
  • 上訴の日から60日(最大90日)以内に報告書を作成しなければならない。報告書は、逆コンセンサス方式によりDSBにおいて自動的に採択される。
  • 上級委員会の審理は、法及び法解釈に関する問題に限られるが、広範な決定権を有する。すなわち、パネルの報告書の破棄(reverse)、変更(modify)、又は維持(affirm)することが可能。しかし、DSUはパネルへの差戻し(remand)については規定せず
  • この結果として、上級委員会は、パネルの報告書の理由づけを大きく変更する場合に、当事国が手続を一からやり直さなければならなくなるのを避けるために、特定の問題についての分析を完成させることが慣例となっている。

履行監視(Surveilance of Implementation)

  • 違反国は、パネル及び上級委員会の報告書の採択から30日以内に、DSBに対して履行の意思を表明しなければならない。
  • 即時に履行することが現実的でない場合、履行のための合理的な期間(a reasonable priod of time )合意又は仲裁により設定できる。この期間は15ヶ月を超えてはならない。合理的な期間の決定の6ヶ月後、DSBの定期的な会議において進捗状況を報告しなければならない。
  • DSU第22条は、合理的な期間の経過までに履行がされない場合、救済措置として補償(compensation)を規定。具体的には、報復措置などの譲許の停止(suspension of concessions)の承認をDSBに求めることができる。DSBは、期間経過から30日以内に逆コンセンサスによりこれを承認しなければならない(ただし実際に譲許停止の承認が要求されることは極めて稀。)。
  • 十分な履行がなされたかについて疑義がある場合(不履行と区別)は、当事国は、元のパネル(履行確認パネルとも)において争うことができる(DSU第21条)履行確認パネルは通常一回のみで、90日以内に報告書を作成しなければならない。

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【メモ】第二次世界大戦時の日本の強制労働事件 In Re World War II Era Japanese Forced Labor Litigation

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第二次世界大戦中の強制労働に対する損害賠償請求事件について、米国判例ですが、ちょっと気になっていたのでまとめました。米国の外交関係法(foreign relations law)の授業において、連邦政府の外交権限と州法の関係を扱った際に取り上げられていたものです。

韓国の徴用工判決とはまた違う文脈ですが、日米関係においても同様の問題が生じていたときにどう処理していたのかという観点から気になりました。米国の司法システムについて知識がないと分かりにくいところもあるかもしれませんが、それについてはいずれ気力があれば書きたいと思います。 

なお、ここで取り上げる2件の判例は、下級審判決ですが、結論については控訴審(第9巡回裁判所)でも支持(ただし外交権限について限定解釈)、かつ、連邦最高裁への上告は棄却されたため原告敗訴で確定しました。

 

114 F. Supp. 2d 939 (N.D. Cal. 2000)

カリフォルニア州連邦地方裁判所

判決 2000年9月21日

事実と主張

  • 1999年7月、カリフォルニア州議会は、民事訴訟法第354条6項(ヘイデン法、戦時強制労働補償請求時効延長法とも)を可決、施行。同法は、全ての第二次世界大戦中の奴隷労働(slave labor)及び強制労働の被害者及びその遺族に、ナチスとその同盟国(allies and sympathizers)及びこれらの支配地域で活動していた企業に対し、補償請求を認める(may bring an action to recover compensation)ものであった。
  • 同法に基づき、第二次世界大戦中、元日本軍の捕虜として奴隷労働者であったと主張する原告らは、日本企業を提訴し、以下のとおり主張した(なお、本件は同様の複数訴訟をclass actionとして一括して判示したもの。)。
  1. 民事訴訟法354条6項に基づく補償請求
  2. 強制労働に対する不当利得(unjust enrichment)の返還
  3. 身体的損害、精神的損害、違法な収容等の不法行為に対する損害賠償請求
  4. 搾取の事実を開示せずに事業を継続していることに対するカリフォルニア州法(事業及び職業法)違反。
  • これに対し被告(日本企業側)は棄却を求めて以下を主張した。
  1. 原告の主張は、サンフランシスコ平和条約により斥けられる。
  2. 政治問題(political questions)の法理、主権免除法(sovereign immunity)及び主権無答責の原則(act of state doctrine)により争うことはできない。
  3. 平和条約及び連邦政府の外交権限(plenary authority)により原告の主張は劣後(preempted)する。

判決要旨

(1)連邦裁判所の管轄権→肯定

カリフォルニア州法に基づく主張のため州裁判所の管轄権を主張する原告に対して、被告の主張する連邦裁判所の管轄権が認められた。

(2)サンフランシスコ平和条約の適用→米国民の請求権放棄認める
  • 1951年9月8日、米国及び47の連合国と日本との間で平和条約が締結。トルーマン大統領は、上院の助言と承認を得て条約を批准、1952年4月28日に発効した。
  • 第14条は、戦争中の損害及び被害に対する日本政府の損害賠償について規定。特に、連合国は、連合国のすべての賠償請求権、戦争の遂行中(in the course of the prosecution of the war)に日本国及びその国民がとった行動から生じた連合国及びその国民の他の請求権を放棄することを定めている(同条(b))本条は、包括的な請求権放棄の規定であり、捕虜の利益については第16条に規定。
  • これに対し、原告は、日本の請求権放棄を定めた第19条には、捕虜の請求権が含まれることが明示されているのに対し、第14条は、戦争捕虜の請求権について明示的に特定していないとして反論。裁判所は以下のとおり判示。
  1. 第19条が特定していても第14条の文言の意味が変わるわけではない。また、原告は、当該条文が不明瞭であることを立証していない。条約は、将来的な請求を一括して放棄することによって、戦争に関連する経済的損害についての包括的で排他的な解決を目指したものである。
  2. 裁判所は条約が曖昧であるとは認めず、よって、それ以上解釈する必要はない。しかし、第19条( b )に不確定要素(uncertainty)がある限りにおいて、裁判所は、当該条文の文言だけでなく、条約の歴史や交渉過程及び当事者間の実際の解釈について考慮することができる(may)。この考慮に当たって、裁判所は独自に歴史的文書を検討する。条約の公式な交渉記録、米国の対日占領政策、上院外交委員会の記録(条約によって補償されない個人は、米国議会を通して救済を追求しなければならないとする)は、原告の主張する請求権は放棄されたものとする結論を支持する。
  3. また、議会証言や国務省の声明などの最近の事例は、平和条約が米国のアジアにおける安全保障上の利益保全と地域の平和と安定に貢献してきたことを認め、政府としても改めて補償を追求する意思はないことを示すものである。
  4. さらに、米国政府の法廷助言人(アミカス・キュリエ)にもあるとおり、この条約解釈は、外交関係を管轄する行政府(executive department)にも継続して支持されてきたものであり、重みを持つ(significant weight)(Sullivan v. Kidd, 254 U.S. 433 も条約解釈における行政府の解釈の重要性を認める。)

【参考】第19条

(b) 前記の(注:日本の請求権)放棄には、... 日本人捕虜及び被抑留者に関して生じた請求権及び債権が含まれる。... 

  • その他、原告は以下の反論を展開。
  1. 「戦争遂行」の結果として生じた損害ではない。政府ではなく企業によるもの。→戦時下の日本において、大企業と日本帝国を区別するのは現実的ではない。原告自身、日本軍が戦争を遂行するために労働していたといえる。
  2. 平和条約は合衆国憲法違反であるとともに国際法違反である。→外国国家に対する自国民の請求権を解決する主権(sovereign authority)を政府は合法的に行使することができるという確立された原則に反する。
  3. 第26条によれば、日本が他の国との間でより優位な条件で請求権処理を行った場合、原告の権利も復活(revive)する。第26条の権利は条約の締約国にのみ与えられているのであり、原告でなく米国政府がその決定権を持つ。 

【参考】第26条(関連部分抜粋)

日本国が、いずれかの国との間で、この条約で定めるところよりも大きな利益をその国に与える平和処理又は戦争請求権処理を行つたときは、これと同一の利益は、この条約の当事国にも及ぼされなければならない。

(3)米軍及びその同盟軍以外の原告→平和条約の請求権放棄規定の適用なし

米国民については平和条約により補償請求はできないが、中国及び韓国国民の原告は、平和条約の締約国の国民(citizen)でないため、平和条約の適用はないため、更なる検討を必要とする。

164 F. Supp. 2d 1160 (N.D. Cal. 2001)

カリフォルニア州連邦地方裁判所

判決 2001年9月17日

事実と経過

  • 前記裁判の原告のうち、平和条約の適用がないとされた中国国民及び韓国国民は改めて第二次世界大戦中の強制労働について日本企業を提訴。
  • 原告は、民事訴訟法354条6号の補償請求を含む5件の州法及び2件の国際法に基づく権利を主張(なお同法は、対象をカリフォルニア州民に限定せず。)。
  • これに対し、被告(日本企業)は、特に、民事訴訟法354条6号は連邦政府の外交権限侵害及び適正手続(due process)違反のため違憲であると主張した。

判決要旨

(1)サンフランシスコ平和条約の適用→適用なし

米国と異なり、中国および韓国は平和条約の締約国でない(韓国は日本と戦争をしていない、中国については内戦のため条約交渉に参加していない)ため、中国及び韓国国民は、請求権放棄規定(第14条(b))の影響を受けない

(2)民事訴訟法354条6項の合憲性→連邦政府の外交権限を侵害するため違憲
  • 外交関係に関する連邦政府の排他的権限は憲法上の原則であると長く認識。
  • 合衆国憲法は、外交権限(foreign relations power)について明示的に規定していないものの、対外関係(external affairs)に関する権限を立法府及び行政府に配分すると同時に各州がその権限に干渉する可能性のある活動に従事することを禁じている
  • 最高裁は、憲法は、外交権限を連邦政府に排他的に与えており、州法は、連邦政府の外交政策の効果的な執行を損なう場合は劣後すると判示した(Zschernig)
  • したがって、州法が、対外関係に示唆(implication)を与えるだけでなく、外国に対して付随的または間接的な影響(incidental or indirect effect)以上のものを与える場合は違憲。
  • 民事訴訟法第354条6項は、(1)直接に国際関係に影響を与える目的である(2)特定の国を対象にしている(3)連邦議会が明示的に州に規制権限を委ねた(deligate)領域を規律するものではない(4)日本政府及び日本企業に対する批判的論評(negative commentary)の司法フォーラムを形成する(5)日本政府が本件訴訟は外交関係を複雑化及び妨害すると主張している(6)米国は、国務省を通じて、連邦政府の外交権限を許されない形で侵害していると主張していることから、同法を適用することは、米国の国際関係に混乱ないし当惑(disruption or embarrassment)をもたらす大きな可能性があり、日本に対して付随的又は間接的な影響以上のものを与えるものである。 
(3)外国人不法行為請求権法(Alien Tort Claims Act, ATCA)の適用→時効の経過により請求権消滅
  • 原告は、外国人不法行為請求権法(1789年)に基づいて損害賠償を主張。同法は、国際法(law of nations)又は米国が締約国である条約に違反する不法行為に限り、外国人によって提起される民事訴訟の第一審管轄権を米国裁判所に認めるもの。
  • 要件として、(1)外国人による主張であること、(2) 不法行為であること (3)国際法違反であることが必要。適用される国際法は、特定され、普遍的でかつ義務的でなければならない(specific, universal and obligatory.)
  • 国際法違反の認定:ニュルンベルグ軍事裁判の判例等を検討し、奴隷労働(及び強制労働)は国際法上の人道に対する罪であると認定。また(カリフォルニア州連邦地裁の上級裁判所にあたる)第9巡回裁判所(Ninth Circuit)は、奴隷を強行規範(jus cogens)と認める。
  • 時効の問題:ATCAには時効についての規定がないが、類似の法律である拷問被害者保護法(Torture Victim Protection Act, TVPA)の時効は10年のため、類推してATCAについても同様とする。原告が時効満了前に訴訟を提起できなかった特別の理由も認定できない。したがって、原告の主張する請求権は時効により消滅した。